2013年1月8日火曜日

大家さん履歴

以前の住まいは大家さんと同じ一軒家だったという話を先日書いたが、
ちなみにその前も更にその前も、
私が住む家はなぜかいつも大家さんがもれなくついてきた。
それを好んで選んだわけではないのだが、
大型マンションよりも世帯数の少ない物件が好きだからかもしれない。
前の前の前というのは、初めて一人暮らししたアパートで、
大家さんの2階建ての家にくっつく形で上下4世帯ずつだった。
この時の大家さんは、いかにも面倒見の良い姉さん女房とおっとりしたご主人、
子供がOLから小学生までの幅で4人。
週末の夕飯時に通りかかると、ちょっと食べていきなさいよ〜と誘われ、
私は縁側の窓からあがり、この家の定番、
サッポロ生ビール黒ラベルつきの夕飯をごちそうになった。
風邪をひいて寝込んでいる時はお膳にのせた食事を差し入れてくれたり、
近所のスナックに一緒に飲みに行ってカラオケもした。
私は、とても若かった。

2年後、次に住んだマンションは、1階が大家さんが営む塗装業の事務所で、
2・3階にそれぞれ2世帯だけの物件。
大家さんの住まいは隣接する自家マンションで、
職人の男たちもそちらに住み込んでいるようだった。
私の部屋は2階で、となりはたまたまカメラマンだった。
「撮影であちこち飛び回っているみたいで、ほとんど留守なのよ。
寡黙な感じの人でね。でもまあ、ほら、男は黙って仕事で何とやらって言うし」と
大家さんが教えてくれた。何とやらとは何なのやら、わからないが、
「ああ、なるほど」と大人の受け答えをしてみた。
ある日、物音がして帰ってきた様子を見計らい、引っ越しの挨拶をしに行くと、
「ども」と頭を軽く下げ、私が持参したビールを奪い取るようにして
そそくさとドアを閉められた。
確かに寡黙そうな人である。が、大家さんの意味深な口ぶりから私が妄想していた
ドラマに展開しそうな方向とは違う方向であった・・・。
ともあれ、本当にいつも留守で、2階は私一人占有同然、気兼ねなく快適だった。
ただ、隣の建物の血気盛んな若い男たちが、深夜、酒を飲んで暴れたり、
軒先に止めたトラックの荷台に、金属パイプを朝からガチャンガチャン積む音で起こされるなど、
穏やかな環境とは言いがたかった。
また、ある朝、私はどこかの牧場にいる夢から目が覚めた。
カーテンを開くと、眼下に本物の牛が並んでモーモー鳴いていた。
斜め前にJAの敷地があり、農業祭のようなものを年1回開催していたのだった。

4年後、次の一軒家へ引っ越す日、大家さんは私に缶コーヒーを手渡し、
業者のお兄さんたちに配るよう促した。
私ももちろんそうするつもりでいたのだが、彼女に先を越された。
さすがおかみさん、男たちの扱いに手慣れている。
男は黙って何とやら、を知っているだけのことはある。
悔しいけど女として負けた気がした。
私はまだ、若かった。

今、住んでいるところは、初めての大家さん不在物件だ。
大家さんはプロの建築士で、自ら設計したらしい。
新築でコンクリート壁のため、入居時に、穴を開けたいところを申し出て、
職人にドリルで開けてもらった。
その時に大家さんも立ち会った。
それまで、私にとっての大家さんは=奥さんだったが、
今回は、いかにも一過言ありそうな年配男性だ。
私は壁掛け時計用の穴と、IKEAで買ったバスタオル掛けをとりつけるための
穴を依頼した。「いい時計だね」とそちらは認められたが
(ちなみにどうってことのない時計なんですけども)、
タオル掛けに対しては
「普通はついていないでしょ、そんなもの」と言う。
「いえ、今までの家にはついていましたよ」と私が言っても
何か納得がいかないらしい。洗面台脇にハンドタオル掛けはついているのに、
どうしてバスタオルのポールは必要ないと思うのか。
脱衣カゴにでも入れればいいじゃないかという感覚らしいが、
私としては使った後、広げて掛けたいのだ。
穴を開ける担当の職人に「お宅はどうなの?」と大家さんは意見を求めた。
「まあうちは1回使ったら洗濯機に入れてしまうもんで。
私が使ったタオルなんて娘が気持ち悪がるし、へへへ」などと、
タオル掛けの有無の直接的回答を避け、
娘にイヤがられているという卑下のオチで冷戦緩和をはかろうとしている。
「だよねえ」と大家さん。
え、あれ? どこの部分に同意しているのだ?
まるで私がタオルを洗わない不潔な女みたいなことになっている?
確かに私は1回ごとには洗濯しない。
2〜3日に1回だ(身体用と頭用は分けてます)。
なぜ1回で洗濯してしまうのか、そっちのほうが私にはわからない。
この、タオルやシーツを洗う頻度問題については、
非常に大きな、ある種タブーな?テーマであり、ここでは言及しないが、
ちなみに私の知人で、1カ月半ごとという豪の女子が
いることを書き添えておく。

狭い洗面所で大家さんと職人、私の3人が立つ妙な雰囲気の中、
どうも私の分が悪くなっているが、
それでも意見を押し通し、穴を開けてもらった。
鏡に映っている私は、もう若い娘ではない。
タオルを掛けたいことをいぶかしがられても、ま、負けないんだかんね。


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