2013年12月24日火曜日

ミスター・ピーナッツとクラリス・クリフ


こちらのマグカップを買ったアンティーク屋さんを再び訪問した。

http://yumikowatanabe.blogspot.jp/2013/05/bourn-vitasweet-dreams.html


私が希望を出していた品を、
アメリカへ買いつけに行ったついでにいくつか見つけて仕入れてきた
という知らせが来たからだ。
アメリカのキャラクターで私が好きなのはガンビーとミスター・ピーナッツ。
どちらもキモカワ系である
(ガンビーはまだしもミスターはカワの要素は限りなく少ないが)。

今回入荷しているのはミスター・ピーナッツ。
この店というかサロンというかは、
イギリスの優雅なアンティーク食器や銀器などを主なアイテムとしており、
そのようななかで、不敵な笑みを浮かべるミスター・ピーナッツのグッズが
置かれたコーナーは明らかに異質であり、常連客は商品を眺めるうちに、
ミスターの視線を感じ、ギョッとおののいているらしい。


昼前に訪れたため、軽く食べていきなさいよ、と
バゲットサンドイッチ1切れとリーフサラダ、卵料理、紅茶が提供された。
これで何も買わずに帰る勇気は私にはない。
ミスターのソルト&ペッパーとマグカップを買うことにした。
他にも2、3のミスターアイテムがあったのだが、
そんなにいくつも類似のものはいらない。
が、いずれ私がそれらを買い取らないかぎり、
ミスターはあの位置で永久に不滅です、となり、
マダムたちが訪問するたびに、恐怖や不快感を与えてしまうことになるだろうか。




いただいた卵料理はイギリスの老舗陶磁器ブランド、
ロイヤル・ウースターの“エッグ・コドラー”で提供された。
これは、器の内側に油脂をぬり、卵を割り入れ、塩・こしょうをし、
好みでベーコンなり何なりをちょいと入れてフタをしめ、
湯煎で10分ほど火入れするとでき上がるものだ。
コドラーとは、coddle(卵などをとろ火でゆっくり煮る)から来ている。


最近イギリスにも買いつけに行き、いい状態のものを多く入手したという。
エスプレッソカップサイズと湯のみサイズがあり、柄もいくつかある。
これは朝食にいいですねえ。
卵を溶いてから入れればフラン(茶碗蒸し)になるのではないか。
プリンだって作れるだろう。
では、と小さいサイズ2個を購入。




調子に乗った私は、室内を引き続き物色。
日本の厚切りトースト(←嫌い)は入る余地のない、
イギリスの薄いトースト(←好き)をはさむためのスタンドや、
尖ったフォークつきのピクルスジャーなんかも、いつか欲しいなあ。


ふと、手をのばしにくい棚の下の奥のほうに無造作に重なっている皿が、
「見て見て、ここにいるよ」と私を呼んでいる。
パッキンにはさまれて全体は見えず、縁の一部だけなのだが、何かとても気になる。
「あのー、あそこにあるお皿は?」
女主人は、どれどれ、とご本人もちょっと忘れかけていたような様子で
その皿を引っ張り出した。
「あら、これはクラリス・クリフよ〜はっきり言って、いいお皿よ」
よく見つけたわねえと、肘でこのこの〜と突かれる。
クラリス・クリフはイギリス女性の陶器デザイナー、
アール・デコのインパクトある色彩で手描きされた作品が有名で、
本国では大変評価が高く、高値がつけられているのだが、
スージー・クーパーがダントツ人気の日本ではあまり知られていないという。

直径20cmのケーキ皿で、3枚ある。
この皿は手描きの強烈なデザインではなく、穏やかな緑色と金色で、
皿の縁の直線と花びらのようなレリーフがとても美しい。



「これを買ったのは10年くらい前、本当はお皿が目的ではなくて、
これをのせていたケーキスタンドが欲しかったのよ」
再び奥から引っ張り出してきたのは、折りたたみ式の三段シルバースタンド。
使わない時はコンパクトに収納できる。
売り物にするつもりはなかったが、もし欲しいなら安く譲るとのこと。

ミスター・ピーナッツの2アイテムにエッグ・コドラー2個、
ケーキ皿3枚そしてどうせならケーキスタンドも・・・
合計すると、結構な出費である。
でも、買わずに後悔したくない。ええい、買っちまおう!!

というわけで、
奇しくも(自分への)クリスマスプレゼントのようなものとなりました。
そんなつもりじゃないけどもね。


このケーキスタンド、よくよく見ると、小さな刻印に
「NAAFI    NAVY ARMY&AIR FOUCE INSTITUTES」とある。
イギリスの海陸空軍のための厚生機関で作られたものらしい。
なるほどそのため貴族的ではなくシンプルで質実剛健なデザインなわけだ。
(でもしかし、軍人たちも午後のお茶なんぞしていたということだよなあ)
可愛らしい皿と対照的な組み合わせがおもしろくてますます気に入った。


2013年12月17日火曜日

お嬢様の自転車は・・・

いつものように、喫茶店でスペイン語の先生を待っていたら、
となりに若い男1人と中年の男2人が座った。
私は予習に集中していたが、耳には勝手に会話が入ってきてしまう。
どうやら、タクシーの運転手が交通事故を起こし、
大学生にケガをさせてしまったらしい。
私はあくまで予習に没頭していたが、
単語をそらんじる際に一瞬顔をあげると、
ギプスでかためられた右腕が目に入った。
中年男の1人は保険会社の人で、
もう1人はおそらくタクシー会社の担当者(加害者本人ではない様子)。
テーブルには文明堂のカステラか、菓子折が置かれている。
私は電子辞書で単語を調べてはノートに書きつける作業を決して怠りはしないが、
耳にはまだゆとりがあるようで、情報が同時進行で入ってくる。

保険員「で、その時に乗っていた自転車ですが、おいくらくらいでしたか?」
学生「2カ月くらい前に買ったばかりだったんですけど、8万ちょいです」
保険員「全治4週間ということで、バイトもその手じゃできないですよね、
失礼ですがこれまでだいたい月いくらくらいもらっていたんですか?」
学生「そうですね、22、3万くらいですね」

はぁ〜。8万の自転車に22万のバイト代、すごいもんだねえ、近頃の学生は。
どのくらい働いたらそれくらい稼げるのだろう。
そして、それが保険で補われるらしく、請求のための書類を渡している。

保険員「ではまた後ほど、詳しくは先日のようにご実家のお父様に電話して・・・」
学生「はい、ボク、こういうのよくわからないんで、親に伝えてもらえれば、
親がボクに説明してくれますんで」
保険員「ちなみにお父様はおいくつでしたでしょうか?」
学生「52、3くらいです」

お父様が噛み砕いて説明してくれたらボクはわかるようになるのか。
バイト代も父親の年齢もなぜか下ヒトケタは2、3とリンクしている。
そして、私は父親とそんなに大きな年の差がないというか、
この青年が私の子であってもおかしくはないのだなあ。



あれは私が20代、すでに社会人で一人暮らしを始めたばかりの頃。
仕事の帰り、地元の駅に着き、路上の自転車置き場に行くと、
ガードレールと、管理人の小屋、そしてわが自転車が
ぐっちゃりとひん曲がっていた。
一目で、車が突っ込んだ事故の跡とわかる。

派出所が目と鼻の先だったので、とりあえず行ってみた。
「あのー、そこに駐輪していた私の自転車が・・・」
「ああ、君の自転車か。この人がやっちゃったの」
泥酔して机に突っ伏している30代くらいのサラリーマンを指差して
警察官は呑気にそう言った。
するとそこに、身重の奥さんが血相を変えて飛び込んできた。
「ちょっと、やだあ、あなた〜どうしちゃったのよ!!」
半泣きの妊婦と、どうかしちゃった夫。
なんだ、この、寸劇風な世界は。
はたまた“警察密着24時”なんかで見かける光景。
さて、私はどんな役まわりか、ここは一つ、ヒステリックに怒るべきか?
が、後日、保険会社から連絡が行くから
とりあえずいったんお帰り下さい、というあっけない結果に。
奥さんは私に平謝りし、「お嬢様を家までお送りしないと」と言うが、
何しろ相手はお腹が大きいし、かなり動揺しているし、
お嬢様って響きは何だかちょっといい気分うふふで、
「私は大丈夫ですから」と断った。
いつもならチャリで突っ走る人気のない夜道を20分かけて歩いているうちに、
やはりお嬢様は送ってもらうべきだったのでは、
どうせならパトカーに乗りたかったと後悔した(乗せてくれるのか?)。

この件を母親に話すと
「保険会社から電話があったら、自転車は新しいと言いなさい」
そんなに新しくはなかった気がするが、
大人の世界はそういうものなのかとよくわからない私は言われた通りにした。
すると後日、保険会社から再び電話がかかってきて、
「当社が査定したところ、数年は経過したものと思われます。
 が、加害者側より、全額弁償するとのことですので、
 新しい自転車を購入後、領収書をお送り下さい」
嗚呼、かーさんよ、汚れちまった悲しみに。金の斧をやっちまったぞよ。


そんなことを思い出していたら、
彼らは打ち合わせを終え、中年2人が先に去っていった。
青年はスマホで(おそらく今の出来事を親に)メールしてから席を立った。
左手にはコーヒーカップ、右手のギプスには菓子折の袋をぶら下げて。

入れ替わりに高齢の男性が座った。
コーヒーを飲みながら、老人は持参したせんべいをテーブル下に隠しつつ1枚食べ、
続いて羊羹も食べた。

私の先生がやって来た。本日の社会勉強はおしまい。



2013年12月13日金曜日

シェフ101号発売!!



先週に続き再びの宣伝ですんません。

『シェフ101号』冬号が昨日完成しました。
書店売りは12月25日ですが、直販はすでにスタートしていますので、
どうぞよろしくお願い申し上げます!! 

特集「新生ロオジエの可能性」
どこよりも早く、オープン前に取材。
ダイニング、厨房、シェフ、全スタッフ、

そしてもちろん料理、すべてを掲載しております。

第2特集 「『古典』を再考する」
「古典」とは一体何をさし、それをどのように学び、発展させているのか。

古典料理の名著案内、古典に対する考え方を聞くインタビューでは
オテル・ド・ヨシノ(手島氏)、銀座レカン(高良氏)、

サラマンジェ・ド・イザシ・ワキサカ(脇坂氏)、
シャトーレストラン ジョエル・ロブション(渡辺氏)、
TOMOSHIRO INOUE (井上氏)、フロリレージュ(川手氏)、
ラ・トゥーエル(山本氏)、レストラン バカール(石井氏)
にお聞きしました。
フランス料理の歴史年表と、今なお継承されている古典料理例3品もご紹介。


この他、カーヴ・ド・コンマ、GINZA TOTOKI、

キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ、カランドリエ、
グリグリ、アップステアーズ、ラ・プティ・シュシュ、レジョン、
シャンブル・アヴェク・ヴュ、ラ・フェット ひらまつ、
アルカナ東京KARATO、ル・ヴァンキャトル、
レストラン イリエ ル ジョワイユー、デュバリー、
ラパルタメント ディ ナオキ、オーベルジュ・ドゥ・リリアーヌ、
リベルターブル、ノリエット、
ステファン・パンテル氏、ルカンケを掲載しております。
ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。




2013年12月6日金曜日

dancyu1月号

まいど、宣伝でございます。
本日発売の『dancyu』1月号(プレジデント社)。
こちらの巻頭特集で、1本だけですが、取材・執筆を担当させていただきました。
取材先は先日、35歳未満の料理人コンテスト“ RED-U 35 ”で優勝した
レストラン ラ フィネスの杉本シェフ。
テーマは甘海老で作るビスクです。

フリーになってから、こうした一般向けの料理雑誌の仕事は初めてだったので、
独特の言葉の表現にやや戸惑いつつも、楽しくやらせてもらいました。

どうぞよろしくお願いしま〜す。


http://www.president.co.jp/dan/