2014年9月29日月曜日

5人目

今年の秋は9月27日にやってきた。
朝起きて、窓を開けた時に、金木犀の香りを感じたら
秋が始まったな、と私は思う。
最寄り駅の前の街路樹はイチョウで、
普通は実らない雄の木が植えられることが多いようだが、
どういうわけかここはほとんど雌の木らしく、
そこらじゅうにギンナンが散り落ち、
通行人や車によって潰され、強烈な匂いを放っている。
(拾い集めている人も時々見かけるけれども)
ベチャベチャで、駅までの道も一苦労だ。
しかしこの匂いは昨日今日に始まったわけではなく、
でもいつから始まったのかは、よく覚えていない。
秋の始まりを告げるにはあやふやだし、心地よくない。
一方、金木犀はある日、涼しく乾燥した空気に乗って、
最初はフッとさりげなく、でも確かにその日を境に一斉に香り出すのだ。
イチョウの一斉シグナルは落葉。
黄色いふかふかのじゅうたんが現れると、本格的な冬だな思う。


春は木の芽時、おかしな人が増えるとよく言われる。
では、秋はどうなのだろうか? 

昼間の電車に乗り、角の席に座って、少しウトウトしかけたら、
何か大きな声がしてハッと目が覚めた。
対面側の座席、私の斜め前くらいの位置に、
メガネをかけ、スポーツ用のフィットする服を着た、
ビバンダム(ミシュランのキャラクター)みたいな体つきの男が座っており、
一人なのに大声で話している。
まるで電話で受け答えしている話し方なのだが、
電話を持ってはいないし、耳にイヤホンなどもつけていない。
その男の異様さを察知して人が寄りつかないのか、
あるいはたまたまそうだったのかわからないが、男の両隣には誰も座っていない。
一方、私の座っている側はまあまあ席が埋まっている。
「うん、うん、ああ、それで? 次の駅で、うん、なに? 爆破? 
   爆破が起きるんだな。それで、5人死ぬと」
大変な事件が間もなく起こる、
その情報を冷静にキャッチしているデカ長といった感じだ。
しかし、爆破予告と共に被害に遭う人数をぴったり予告するというのはあまりないような? 
「爆破で、5人死ぬんだな? 1・2・3・4・5」
と、男は向かいの席に座る人を左から目で追い、順に数え始めた。
最後の5というのはどうやら私である。
はて、これはどうしたもんだろうか。

デカ長は私たちを見捨て、次の駅で降りていった。
とりあえず爆破は回避されたようである。
秋も秋でまた、おかしな人はやはりいるのであるねえ。


2014年9月21日日曜日

ロールプレイング

一昨日と昨日の2日間、私は↓こちらへ取材に行っておりました。

http://www.fbo.or.jp/?p=1005


セミファイナルに残った24名の唎酒師が、
ロールプレイング審査とプレゼンテーション審査により10名にしぼられ、
決勝では、同日開催された日本酒祭りに来ていた人たちも見学ができる
公開審査により、世界一の唎酒師が決定されるというもの。
私はこの団体の会報誌の編集を担当している。
そのため、仕事を差し置いて詳しい内容をここで書いてしまうわけにはいかない、
よって、まあ、脱線話を少々。

ロールプレイング審査とは、会場にテーブルや椅子を設置して
客席に見立て、お客(審査員)からの質問に対し、
的確に(更にはより気の利いた内容で)答えられるか、
会話をしながらもサービスする手や動きはスムーズか等が審査される。
私は24名全員の審査を見学したのだが、
お酒に関する説明やサービスは比較的できているのに対し、
お客を迎え入れて着席させ、メニューを渡すといった一般的な接客が
今ひとつな人が目立ったことが気になった。
おそらく西洋式のレストランよりも居酒屋などで働いている人が多いのだろうな。
椅子を引いたり女性を優先するなど、日頃行っていないのだろう。
しかし場の設定はナイフフォークが並び、ワイングラスに酒を注ぐレストラン仕様だ。
世界大会であるため、アメリカやアジア圏から来た選手もいて、
さすがに彼らはそのへんのことは慣れた所作だった。

決勝大会の公開審査においても、同様のロールプレイングが行われた。
壇上でスポットライトを浴び、大勢の観客が見つめるなか、
彼らの心境を想像すると、こちらまでドキドキしてくる。
せめて観客の眼光2つ分だけでも減らしてあげたくなり、
メモ帳に視線を落としてしまう。

だって、アタシも経験があるんだもの。
(ポアポア〜ンと白い煙インサート、回想シーン)
あれは、某ファミレスのアルバイト。
まだ私が制服のミニスカートのワンピース(7号サイズ)を着られた時代。
社内規模ではあったけれども、サービスコンクールが定例で行われていた。
客席で接客を担当する係と、店内誘導及びレジ係のペアで各店舗より出場し、
地区予選からスタートして、最後は全国大会へと勝ち進んでいく方式。
私が勤務していた店からは、
レジ係はいつも冷静沈着なベテランのN先輩、そして接客係は
どういうわけか私が出ることになってしまった。
指名したのは、地域の店舗数店を統括するDM(ディストリクト・マネージャー)だ。
決して私のサービスが秀でていたわけではないので、
コンクールでも度胸がありそうだというその一点だけで買われたのだろう。


ちがうちがうそうじゃそうじゃない(by鈴木雅之)
その一点とはどこにもありはしない、勝手なイメージだ。
当時、ロールプレイングなんて言葉も知らなかったが、
そんな寸劇みたいなことを人前でやるなんて、とんでもハップンなんであるよ。
しかも、勤務していた店は、過去にそのコンクールでそこそこいい所まで
行った功績があり、そのプレッシャーまでかけられている。


細かいことは覚えていない。思い出したくないからかもしれないが。
覚えているのは、お客から「タバコを買ってきて」と言われたこと。
私はどこまでの演技をすればいいのかよくわからず、
本当にそこに自販機があるとイメージして、
小銭(もちろん実際には何もない)を入れて、銘柄をちょっと探すフリをし、
ボタンを押し、下から取り出す細やかなパントマイムをしたのだが、
周囲で見ている審査員たちになぜか失笑された。
次に「店長を呼んで」と言われ、しかし店長は不在ということになっており、
私は自分で何とか対応しようとしたが、うまくいかなかった。
(名前と電話番号を書いてもらい、後ほどご連絡しますと言えばよかったらしい)
隣町の店舗でこの審査が行われたのだが、
同じ店のバイト仲間がその他のお客役というシチュエーションで周りの席に座っており、
何がイヤって、身内に見られていることが恥ずかしくて
すっかりテンパってしまったのだった。


敗退後、DMは私に「ワタナベがあんなにあがるとは思わなかった」と言った。
ちなみにこのDMは別のある時、「ワタナベは将来どんな仕事に就きたいのか?」と
聞いてきたので、「編集者になりたい」と答えたら、
「フンッ。現実はそんな甘いもんじゃないよ」と鼻で笑われた。
いろんな意味で、人を見る目がないDMであった、ということになろーか。




2014年9月11日木曜日

シェフ104号発売!!





『シェフ104号』秋号、本日完成です! 
書店売りは9月25日です。
直販は本日より承りますので、よろしくお願いします!! 

特集は、定番からの進化シリーズで「サーモン」料理です。 
ラ・メゾン・クルティーヌ、モノリス、エミュ、
ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブションに製作いただきました。

好評のグランシェフはミチノ・ル・トゥールビヨンとオー・プロヴァンソーです。

新連載「マダムインタビュー 私流サービス論」では
オー・コアン・ドゥ・フーに取材しています。

この他に、サンス・エ・サヴール、ル・ブション、エッサンシエル、
シグネチャー(マンダリン オリエンタル 東京)、レストランKAIRADA、
ル・ジュー・ドゥ・ラシエット、アニエルドール、ビストロ デザミ、
ビストロコンフル、ビストロ雪が谷、レストランパフューム、
レストラン バカール、コラージュ(コンラッド東京)、ル ボークープ、
シュマン、カシーナ カナミッラ、Restaurant UOZEN、オマージュ、
パティナステラ、HATAKE AOYAMA、アクアヴィット、
ドミニク・コルビ氏を掲載しています。


ご協力ありがとうございました。

2014年9月4日木曜日

初訪・小豆島

(前回のブログの続きとして。
 父の件、ご心配おかけしました。おかげさまで小康状態になったため、
 とりあえず退院できました。発作が起きないことを祈るばかりです)


小豆島に行っておりました。
半分仕事で半分遊び、いや、仕事にかこつけてのほとんど遊びで。


『SPICE CAFEのスパイス料理』の著者、伊藤一城シェフの知人で
フリーの編集者である神吉(かんき)邦弘氏が橋渡し役となって、
小豆島のUmaki Campにて出張料理教室が行われることになったのだ。

↓Umaki Campはこんなところ

http://umakicamp.main.jp/

私は別に同行する義務はなかったのだが、
まあ、アシスタントがいたほうが何かと便利じゃろうと。

伊藤シェフと神吉氏は成田からジェットスターで片道約5000円。
私は羽田からANAで、早割を利用してもその約3倍強のお値段。
くぅ〜なんという価格差だ。
私が朝イチの成田発の便に乗るには、前夜から成田入りしなければならない。
ビジネスホテル代を足してもまだ安いのだけれども、
なんだか大げさになってしまうので諦めた。

高松の港で合流し、高速艇で45分。
天気予報では、雨と雷マークが出ていたのだが、
島に降り立つと、南国の強い日差しに出迎えられた。


現地コーディネートをしてくださったのは大塚一歩氏。
ウマキキャンプに入る前に、小豆島の名産の一つ、醤油の蔵に連れて行ってもらう。
こちらは「ヤマロク醤油」さん。

http://yama-roku.net





濃厚な香りがぷわーんと漂う。高さ2mの杉樽がずらりと並ぶ姿は圧巻だ。
100年以上前と変わらぬこの環境には、樽の壁面や土壁などそこらじゅうに
無数の酵母菌やら乳酸菌やらが着いており、それが美味しい醤油を造り出すのだそうだ。


アートの島というと直島のイメージが強いが、
プロジェクトは瀬戸内の各島なので、ここ小豆島でも
あちらこちらで作品が見られる(ウマキキャンプもその一環だ)。
ドライブしながら、何だあれは? を発見するのが愉しい。



続いて魚の卸業者へ。
シェフはここで小アジと活ワタリガニを購入。イベントで使ってみるらしい。
写真の魚はベラ(買っていないけど)。


関東ではあんまり価値がなくて釣り人にも捨てられたりしている魚だと思うが、
瀬戸内のは美味しいらしい。
店のおじさんが「バーベキューやるならこれがちょうどええ」と
何度も何度もそう言ってすすめるのだが、
私たちはBBQをやるとは一度も言ってないんですけどねえ。
どうちょうどええのか、聞きそびれた。


見所の一つ、中山地区の棚田を眺めつつ、



「HOMEMAKERS」を訪問。

http://homemakers.jp/

こちら、三村ご夫妻が、有機野菜を栽培&販売、
古民家の自宅を改修してカフェも営んでいる、オシャレファーマーである。
ここでもシェフは、イベントに必要な野菜や、
必要じゃないけど欲しくなっちゃった野菜をあれこれ購入。










会場入りするやいなや、準備にとりかかる。
シェフの指示のもと、私は、買ってきた数十匹の小アジのセイゴや内臓を取り、
スパイスをミックスしたペーストに漬け込んだり、米3キロをといだり。
ウマキキャンプはガラス張り、半オープンエアのような建物で、
火を使っていると温室状態、たちまち汗びっしょりに。
普段は冷房の中でヌクヌク、いや、冷え冷え状態に慣れているため、
これほど汗をかいたのは久しぶりである。
手ぬぐいを首に巻きたくてたまらない(けれど持っていないのでタオルハンカチを
濡らして首裏にはりつける)。
お気に入りのエプロンがターメリックで染まってしまいショックだが
そんなことも気にしていられない、あっという間に開始時間となった。






参加者は20名。募集時にはすぐに定員となりキャンセル待ちも出ていたという。
(昼に訪問した三村夫妻も参加している)
島の人たちだけでそう簡単に集まるものなのか、不思議な気がした。
更に驚いたのは、参加した人たちがとっても好奇心旺盛で積極的なこと。
最初からシェフにあれこれ質問したり、反応が明快、和気あいあいムード。
東京とは明らかに違うなあ。
蚊が多く、蒸し暑かったり、こちらの準備不足で不手際があったり、
という状況だったので、もし私が参加者側の立場だったら、
きっと不快に感じて顔に出してしまったのではないかと思うが、
そんなイヤミな人は皆無だった。
参加者同士、顔見知りが多かったということもあるようなのだが、
一人一人が個性的で魅力のある人たちなのだ。

情報にあふれる東京と異なり、
地方では、貴重なチャンスをできる限り有効に使いたいという思いが強いのかもしれない。
全員に聞いたわけではないのだが、島出身よりも他からの移住者のほうが
ひょっとして多いようだった。
島で暮らしていると、こんなふうになるのかあ、
なんだか羨ましい。
シェフのデモンストレーションの後は、4班に分かれてチキンカレーの実習。
ますます会場は盛り上がっている。
事前にシェフが仕込んでおいたワタリガニカレーとサンバル、
私も手伝ったアジのスパイス焼きなどと共に試食いただいた。
最後は皿洗いまで参加者が分担して手伝ってくれて、まったくもぅ、
ヒデキ、感激!!である。








翌日は、大塚氏の案内で、いろんなところを巡った。ありがたや。
こちらは碁石山から見た瀬戸内の風景。



知らなかったが、小豆島内だけで八十八カ所霊場があり、
歩きだとちょうど1週間のお遍路コースになるという。
四国のそれは規模が大きくて、そう簡単にトライできそうにないが、
1週間ならちょうどいいかもしれない、と少々惹かれる。
実際、小豆島お遍路女子だかガールだかの動きもある。
しかしどうだろう、私はそのガールの範疇なのか?
もはやリタイア組に入れてもらうほうがしっくりするのではないか?

碁石山は第二番の霊場、こうした山岳霊場が多いのが小豆島の特徴だそうだ。
ここには天然の洞窟(岩屋)があり、波切不動明王が祀られている。
住職の奥さんが、前夜の料理教室に参加していた方でびっくり。
護摩焚きしてみませんか?と誘われ、
シェフと神吉氏と私の3人でやっていただくことに。
個別の祈願が書かれた木の棒を自分で一つ選ぶ。
風光明媚な土地と、人々の優しさに触れ、
ピュアだか開放的だかの気分になっていた私は「良縁成就」を手にしていた。
しかし手にした途端、我にかえり、恥ずかしくなった。
キサマ、護摩ガールのつもりか?
辱めはまだ続く。その木に自分の名前と数え年を書けという。
いきなりそこにいる人たちみんなに、私の年齢(数え年だからプラス1歳)を
公表することになってしまった。
ぜんぜんガールじゃないってバレた。
そこにいる人たちの中で(住職夫妻やアテンドの大塚氏も含め)私が一番年長者だ・・・。
けれど、私は別に今まで詐称していたわけじゃないのだからね、
ナンだバカヤローと荒井注になる。

更には、ハンニャハラミタ云々・・・と、
住職夫妻が実に見事なハモりのお経を洞窟内に響き渡らせる神聖で感動的な祈祷において、
3人各自の名前と数え年、祈願タイトルを唱えられた。
洞窟に響き渡る我が願望、我が歳。嗚呼。
荒井注を越えて無の境地になるより他に道なし、と。

木がメラメラと燃える炉に手をのばし、その手で自分の体を撫でる。
ここで、私はハタと気づいた。
なぜ、父の健康祈願をしなかったのか。
自分の強欲さに心底びっくりした。
不動明王さん、ゴメンナサイ。
追加で、いや、さっきのは取り消しでいいから、
ここはひとつ、家内安全でお願いしますっ!!



塩の工房にも行きました。
小豆島は、醤油よりも塩の製造の歴史のほうが古いのだが、
今では作られなくなり、たった1軒しかない。
「塩屋  波花堂」さん。その名も“御塩(ごえん)”という塩を手作りしている。


こちらのオーナー、蒲ご夫妻は外からの移住者で、つまり歴史ある老舗ではなく、
ゼロからのスタートで40年ぶりに小豆島産の塩を復活させたそうだ。
なんと、こちらの奥さんも昨夜のイベントの参加者のお一人であった。
まさに“ごえん”だなあ。

↓ちょうど、つい最近、無印良品で販売されるようになったらしいです。

http://www.muji.net/lab/blog/shodoshima/025270.html


小豆島といえばオリーブが有名。
でも、純粋な小豆島産オリーブで作られたオリーブオイルの販売は時期が
限られているし、すぐに売り切れてしまう。
年間通して販売されているのは、海外から輸入したものだ。

↓こちらは、スペイン・アンダルシアから移植された樹齢1000年以上のオリーブの木。
 東日本大震災の翌日に小豆島に到着したそうだ。
 背丈はそんなに高くないのだが、がっしりこんもりとしており、青い実がなっていた。



それから、そうめん。
大塚氏のお宅で出された、奥さんお手製のそうめんのジェノヴェーゼがとっても美味しくて。
真似したい!と思った。
普通のそうめんよりも太く、ツルッとした舌触りとモチッとした弾力が何とも心地良い。
↓こちらの製品の太口タイプを使っているそう。

http://www.kinosuke.net

パッケージがオシャレで(お値段も高級)、
東京では自由が丘のTODAY'S SPECIALや渋谷ヒカリエなどで販売されている。


製造場も訪問したが、そうめんが作られるのは乾燥して晴天の多い冬場だそうで、
残念ながら見られず。繁忙期は明け方3時から作業するんですってよ。



まだまだ旅の報告はあるのだが、そろそろ疲れましたのでこのへんで失礼します。

夕日が沈むまで、ぼんやり眺める時間が、贅沢でした。