2015年11月19日木曜日

祈り

私は、暗闇で、寝ている。
横になってはいるが、眠れない。
私の冷たく小さな足を、父の温かく大きな足がはさみ込む。
「あるところにギーギーとガーガーがいました」
父の即興の愉快な物語。

私は、暗闇で、寝ている。
深く寝たような、夢うつつだったような。
今は果たして何時なのか、わからない。
玄関の音がする。
父が帰ってきた。
母が私の容体を報告している声がする。
部屋のドアが開き、光が差し込む。
私は寝たふりをする。
父の冷たい手が、私の熱い額にあてられる。
何も言わず、光のほうへ、スーツの背中が去っていく。

遠い、昔の思い出。



昨日の明け方、不思議な夢を見た。
母が、純白のウエディングドレスを着ていた。
若い頃の母ではなく今の母だった。
父もいたが、どんなだったか、起きた時には忘れていた。
ちょうどその頃、父は永遠に旅立った。

父はいま、白い真綿に包まれて、横たわっている。
私は、おそらく初めて、父の額に手をあてた。
私の手は少し冷えていたけれど、それでも父の額よりは温かい。
私の手は少し震えていたけれど、父の額は微動だにしない。

私はいままで父を温めてやることはできなかったし、
これからは、まったくできない。

どうか、父の眠る場所は闇の中ではなく、光の中であるように、
ただ、そう祈ることしかできないのです。



2015年11月15日日曜日

Mon Salon 発売!!

まいど、宣伝でございます。

スクールとサロン経営とセンス磨きのためのスタイルMook、
『Mon Salon』(誠文堂新光社)が発売されました。

http://www.amazon.co.jp/Mon-Salon-No-01-スクールとサロン運営とセンス磨きのためのスタイルMOOK-SEIBUNDO/dp/4416715021/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1447567889&sr=8-1&keywords=モンサロン





同業者のT子さんより仕事を回していただき、
私は巻頭インタビュー記事の
藤野真紀子さん、丸山洋子さん、藤枝理子さんを担当いたしました。


日頃はシェフや外食店の取材が多いため、
今回の仕事はなかなか新鮮だった。
美しい自宅のサロンで、紅茶やお菓子などを教え、
その後にお茶を飲みながらお喋りに花が咲くひとときが楽しい、
そんな優雅なお話を聞く間、
私は「へーへーほぅ〜」と、
ただひたすら、与作のような相槌を打つばかりでありました。
なぜだろうか、こういう時、私は自分が女ではないような気がする。
さりとて木こりでもないとは思うけれど。

個人のサロンが流行っているのは、
主婦業を中心にしつつ、何らか社会と関わりを持ちたいという女性と、
お稽古ごとをしたいが、弟子のように厳しく教わるのではなく、
ゲストとして丁寧におもてなしされたいという女性、
双方のニーズが合致しているからだろう。

ちなみに私が大人になってから通ったお稽古ごとは、
スペイン語を別とすると、20代の頃のお菓子教室がある。
どれくらい通ったのだったか、1年いや2年か、
今にして思えば、その先生は「サロネーゼ」のはしりだった。
有名なお菓子研究家のお弟子さんの一人で、
ヨーロッパでの研修経験もあり、
一軒家の自宅の一室を教室として使用されていた。
お菓子を作った後は、紅茶とともに試食をした。
先生の口調は「ごきげんよう」な感じだった。
そうか、私も20年以上前にサロネーゼしてたんじゃん。与作じゃないじゃん。

けれど、私の場合は、個人的な趣味というよりは、仕事上、
プロの料理人やパティシエ相手に取材するため、
本格的な菓子のプロセスやコツを知っておきたいからというのが動機だった。
(もちろん料理も本当なら習うべきだっただろうが、
 お菓子の技術のほうが見えない部分が多かった)
そして、スペイン語もそうなのだが、
基本的にグループレッスンが苦手で、お菓子教室もマンツーマンを選んだのだ。
先生が私の作ったお菓子を味見している間、
「ど、どうでしょうか・・・」と、審判を待つ身。
優雅にみなさんとの会話を楽しむという経験はない。
サロネーゼにはナレネーゼ。
与作は独占欲が強くて質実剛健派なのである。
ホーホー。





2015年11月1日日曜日

遺伝子検査(前編)

いつもの新聞集金。
お兄さんは「お知らせがあります」と、1枚のチラシを差し出してきた。
「遺伝子検査、身近になりました。」

テレビなどで見て、ちょっと気になってはいたが、
高そうなので、手が出せずにいた。
が、今ならば、県の助成で40%引きだという。
それでも税込1万9310円するのだが、
この頃、親が弱って何かと世話する機会が増え、
自分自身の身体のリスクも何かわかるのであれば、
調べてみたいと思った。





申し込むとすぐにキットが届いた。
人間の細胞の中には30億文字の遺伝子情報が収まっており、
それを読み取って、体質や将来の病気の傾向などを解析、
3大疾病を主に280項目もの検査結果が出るという。
しかも、検査に使う細胞とは、唾液から取るのだ。
指先を画びょうのようなもので切って血液を取る検査を何かで見たことがあるのだが、
唾液であればチクリも何もない、一番ラクな検査ですねえ。

レモンの写真のカードが入っていて、なんじゃこれは?と思ったら、
唾液をいっぱい出すのに使っておくれということだ。
おそらく海外仕様なんでしょうね、
日本人だったら梅干しの写真のほうが
もっと唾液が出るのではないかなあと思うが
それは私だけかしらん。




こちら(中央)が唾液を入れる容器。
黒い線のところまで唾液を入れるように指示があるが、結構な量ではないか?
改めて考えてみると、歯磨き以外に日頃、
ただ単に唾を吐くという行為をしたことがない。
ええ、ホントですよ、一応アタクシも女子でございますからね。
なので、意外と難しい。
勢いをつけてキレよく吐こうとしても、容器の口が狭いので躊躇してしまう。
じわーっと吐くと、ヨダレが垂れるみたいな感じになってしまう。
が、どうやら容器は上げ底になっているのか(白いフィルムで見えない)、
それとも唾液の量が多いのか、6、7回程度でボーダーラインのところまできた。
レモンのお助けカードを見ないうちに終わった。
泡立っていて、自分の唾ながらキモい。
こんなキモい液体の中に、未来の私の身体のデータが本当に入っているのか?
上の漏斗をはずし、写真左にあるキャップを強く締めると、
中の青い液体が唾液部分に落ちるのでよく振って混ぜよ、とある。

すでにポストに投函してきた。
検査結果は2週間くらい後になるらしい。
さあて、どんな結果になるのかな。
ちょっぴりコワイけれど、
まあ、新種の占いみたいなもんだと思えばいいか。
それにしてはコストがかかり過ぎているか。