2014年2月26日水曜日

のどごし

ようやく諸々の原稿がひと区切りつき、
一瞬だけだがひと息つける。
ちょうど天気が少し暖かくなって、
「お疲れさん」とねぎらってくれているかのよう。

ここ数週間の仕事のテーマの一つがクラフトビールだった。
ビールを飲むとすぐ酔っぱらうので得意ではないのだが、
クラフトビールについて調べたり取材していると、
こちらならいいかもしれない、と思った。

クラフトビールの明確な定義はないのだが、
その呼び名は、家庭で趣味のビールを造ることができるアメリカから始まった。
日本では、1994年の酒税法改正により地ビールが誕生。
それまでは大手5社(キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー、オリオン)
の独占だったものが、ビールを醸造するための免許取得に必要な
年間最低製造量が2000㎘から60㎘まで引き下げられたことで、
小規模な醸造所(ブルワリー)が多数登場し、一時はブームとなった。
当時は観光誘致目的なども多く、品質的に玉石混合だったため、すぐに低迷したが、
長年のノウハウをもとにきちんとした製造管理のできる日本酒の蔵元や、
志高いベンチャー企業が研究を重ねることにより、
近年は品質の高いビールが造られるようになってきている。
当初の地ビールとは一線を引く意味で、
クラフトビールと呼ばれるようになってきているというわけだ。

大手企業が造るビールの大半は下面発酵という製造法(ラガー)による
ピルスナータイプだ。日本はこれ一辺倒だったのだ。
一方、クラフトビールは、上面発酵(エール)が多く、
ドイツのヴァイツェンやベルギーのヴィットなどの白濁してフルーティーな
ホワイトビールや、一般的なエールより更に苦味やアルコール度の高いIPA、
ポーターやスタウトなどの黒ビール、
ベルギーのランビックという自然発酵のものなどバラエティに富む。
ヨーロッパではクラフトビールという概念はなく、
日本でいうところの日本酒の蔵元がたくさんあるのと同じ感覚だという。
しかし日本では、国産の地ビールに限らず、
従来のピルスナー以外の特徴のあるビールもクラフトビールと呼ぶことが多い。

大手企業のピルスナーは、ホップの苦味がきいた、
すっきりしたのどごしが特徴のため、5〜6℃に冷やしてぐいーっと飲む。
が、クラフトビールは香りや味わいを楽しむものであるため、
例えばスタウトなら、適性温度は10℃以上、ブランデーを飲むような感覚で味わう。
これなら、空きっ腹が冷えたりタプタプすることもなく、
ゆっくりと味わえるから、私にも向いているんじゃないか、と思ったわけだ。
ビールのつまみといえば揚げ物やスパイシーな味つけの料理が代表的だが、
スタウトにはチョコレートを合わせるのもオツであり、
新しい味覚の悦びがクラフトビールにはある。


昨日、イタリア料理の食文化研究家の長本和子さんのご自宅にお呼ばれし、
トスカーナ料理をごちそうになった。






パスタはピチと呼ばれる卵の入らない手打ちで、モチモチとした弾力がある。
あえて均一にせず、やや太いところと細いところがある状態にのばすのが
ポイントとのこと。ソースのからみ具合や歯触りに変化がつくことで
より美味しく感じるからだ。

イタリアのパスタが何百種類もあるのに対し、
日本ではうどんや蕎麦はそこまでの形状変化はないのではないか。
なぜだろう。
そこでふと思ったのは、“のどごし”である。
ビールと同様、日本人は麺類にのどごしの良さを求める。
グビグビッと飲みたい。ツルツルッとすすりたい。
のどごしの良さを求めると、おのずとビールのタイプや
麺の形状はある程度しぼられてくる。
一方、イタリアのパスタはかみしめることで、
その食感や生地の風味を堪能する。
伊丹映画の『タンポポ』にもそれを象徴するシーンがあったな、そういえば。

のどという器官にどんな感覚機能が備わっているのだろう。
日本人だけが突出してその快感を関知できるのどを持つ人種なのだろうか。






2014年2月15日土曜日

私はどの木

昨日再びの大雪、私は一歩も外に出ることなく、
仕事に明け暮れておりました。
今日も同じく。やってもやっても終わりにならない。
どうなっとるのだ。
仕事でさんざん原稿を書いて、
息抜きにこうして同様に文字を打っているとはいかがなものか。
雪の影響で停電になった地域もあるようだが、
もし自分の家の電気が使えなくなったら、どうなるのだろう。
寒さはもちろんのこと、このPCが使えないと仕事にならない。
子供の頃、台風で学校が休みにならないかなあと思ったように、
いっそ停電になったなら、仕事も延期できるのになあ、と
思わないでもないが・・・いや、思わないな。


外が晴れてきた。雪も溶けてきている。
庭の木々を眺めていて、ふと、不思議なことに気づく。
ラベンダーの植木には見事なくらいこんもりと雪の帽子がのっかり、
まったくと言っていいほど溶けていない。
その一方で、ドウダンツツジや雲南黄梅にはほとんど雪が残っていない。
2メートル以上あるオリーブの木は、雪の重さに堪えかねて、
枝の半分くらいが倒れかかっている。
かわいそうに。







なんだか、木が人に見えてきた。
雪は重圧、ストレスだ。
小さくてしかし密集しているラベンダーは、
ストレスを振り払うことなくあるいはその術を持たず、
いつまでものせたまま耐えている。
細かい枝のドウダンツツジや柳のようにヒョロヒョロとした枝の雲南黄梅は
一見すると弱そうだが、ストレス自体が留まっていられる余地がないので、
するりとかわしている。
身体を大きく広げた立派なオリーブは、
大きい分だけストレスをたくさん受け止めるが、ダメージも大きい。

私はどの木だろうか。






2014年2月8日土曜日

日本酒のお年頃

お酒を飲むのは好きなのだ。
好きなのだけれど、弱いのだ。それがザンネンでならない。
何もザルと呼ばれるようなレベルになりたいわけではないが、
普通に飲めるくらいになりたい。
と言うと、普通ってどれくらいよ?とみんな聞く。
だからその〜、みんなと同じくらいよ、と答える。

しかし考えてみたら、私の周辺の“みんなたち”は、結構いけるクチが多い。
みんなと同じ=普通ではなくて、
かなりのもんということになってしまうかもしれない。
でも、みんながみんな、かなりのもんだったら、
やっぱりそれは並ってことになるのではないか?

看護師に「注射する際の消毒は、アルコールなしのものと指定したほうがいい」と
過去2回言われたことがある。
脱脂綿で拭かれた後、皮膚が赤くなってしまうからだ。
それって、明らかに体質的にアルコールを受けつけない人に間違いなし、だろう。
確かにお酒を飲むと、すぐに顔も身体も赤くなる。
特にビールに弱く、350㎖缶だと50㎖が残っているくらいで、
もうすっかりゆでダコだ。
しかし、飲めない人というのはたいていグラス1杯すら飲めないのであり、
極端な人だと1滴もダメではないか。
私の場合はワインなら2杯、ジントニックなどのカクテルなら2〜3杯大丈夫だ。


今までお酒のせいで吐いたことが一度もない。
もともと吐くことに並ならぬ恐怖心を持つ私は、
自分の限度を知るまで飲むことはせず、どうしてもセーブしてしまう。
ハメをはずせない、つまらない女ですね。
一度だけ、20代の頃、初めてのローマ訪問で調子づいてワインをかなり飲み、
ホテルの部屋で一晩中苦しんだことがある。
しかしその時も、吐き方がよくわからないというか、
そんな状態(=吐いたらラクになるのに〜と人が言う状態)になっても
まだ身を委ねられず、
結局、バスルームの前の床に体育座りになって、
悟りの境地をなんとか開こうとし、
難産の妊婦のように苦しみの中にも時折波が引いてうたた寝し、
朝までそこで過ごしたのだった。


夜遅く空いている電車で、向かいに座り赤ら顔でグダッと寝ていたサラリーマンが
突然立ち上がり、靴を脱いだかと思うと、座席の上に立って乗り、
走行中の電車の窓を下げ、首を外に出した。
その続きを見届けるのは恐ろしいのと
幸いにも次が私の降車駅だったので、その場をすぐに去ったのだが、
あのサラリーマンは朦朧としながらも、あくまで車内で失態を起こさぬよう、
そしてご丁寧に靴まで脱いでいるのだから、
たいしたもんと言うか何と言うか。
本当はハメをはずせないタイプの人だったのだろう。


酒の失態の代表格のような悪名高き扱いをされてきたのが日本酒である。
日本酒の二日酔いの恐ろしさたるや・・・とみな口を揃えて言うのだ。
そのため、弱気な私はこれまでずっと手を出せずにいた。
味わいもよくわかっていなかった。
ところが昨年から、唎酒師の関係の編集の仕事が定期的に入るようになり、
日本酒を勉強しないわけにはいかなくなった。
恐る恐る試してみると・・・。
あら、まあ!! とっても美味しいではないか〜。
それに、1合飲んでも大丈夫なのだ。
100人乗っても大丈夫!!(byイナバ物置)な気分だ。
ビール1杯飲むよりむしろ赤くならないし、ボワーっともしない。
今のところ、最高記録は1合半。
目標はするっと2合飲めるようになりたいな。理想は3合だけど。
(普通に飲める皆様方、笑わないように)


日本酒が悪く言われてきたのは、若い頃に質の悪い安酒を飲んだ経験や、
酒豪たちのケタ違いの酒量によるエピソードであり、
私のようなチビチビ派で、いい酒の情報を得られる環境にある者は、
そんな心配することもなかったのだ。
また、不思議なことに、周囲の友人・知人たちも
「この頃、日本酒が旨くって」と言うようになった。
ひょっとすると日本酒は、20代の若い身体よりも、
40代以降の中年の身体にフィットする酒なのではないだろうか。


今日は大雪だ。夜になった今もまだ降り続けている。
昼間、テラスの積雪を四合瓶ではかってみたら、すでにこんなに積もっていた。



これは岡山県勝山の酒で、女性杜氏が造っている、
炭屋彌兵衛 純米造り 無濾過生原酒(辻本店)。
先日、酒販店を取材した際に買ってきたものだ。
この蔵元は酒好きの谷崎潤一郎ら文化人との交流があり、
『細雪』は、かの地に逗留している時にも書かれていたらしい。

私は先ほどまで、アメリカ料理のレシピ本の試作&校正を行っており、
家の中はケイジャンスパイスの香りが漂っているのだが、
そろそろ休憩して、雪見酒といきますか。
日本酒の美味しさがわかるようになるという点においては、
中年になるのも悪くないね。





2014年2月2日日曜日

スカイツリーと富士山と

この頃、仕事で頻繁に押上に行く。
十間橋近くにある「スパイス・カフェ」という店のレシピ本を製作中なのだ。

帰り道、十間橋からスカイツリーを眺めてほっと一息つく。
ここは逆スカイツリーが見られるため、撮影スポットとして人気が高い。



一昨日の仕事の帰り、橋のたもとにある「Fujisan Deli」という、
裾野市のアンテナショップで駿河はんぺんを購入した。

http://fujinokuni.biz

スパイス・カフェで終日撮影中、
お店から差し入れでいただき、美味しかったのだ。
はんぺんというと白くてフワフワしたものをイメージするが、
これはさつま揚げのような、いわゆる揚げかまぼこだ。
ブリブリと弾力があり、食べ応えがある。
特に紅ショウガ入りが旨い。
はんぺんはもともと駿河の料理人で半平(はんぺい)という人が
作ったものという説があるそうな。

以前は普通の小判形だったが、最近、富士山の形にしてみたとのこと。
ならば、とスガハラの富士山グラスにビールを注いでみた。


このところ仕事が詰まっており、のんびりできない。
せいぜい、旨いもんとお酒でつかの間の気晴らしだ。
が、このビールも、クラフトビールの取材で仕事がらみだったりするのだが。
スカイツリーに富士山、か。
大きな物には呑まれる、じゃなくて呑んじゃって食べちゃってるな。