2012年9月6日木曜日

憧れ

親戚の男の子に、25年ぶりに再会した。
母方の年の離れたいとこの子供にあたる。
男の子といっても今ではもう立派なオジサンであり、
そのオジサンよりだいぶ年上の私は・・・むにゃむにゃ。
25年前に我が家に泊まったのが1度きりの出会いだった。
なので、親しかったわけではないのだが、
妹をもつ彼からすると、年上のお姉さんは憧れだったそうで、
何か強く印象に残っていたらしい。
「お姉ちゃんに教わった(トランプの)スピード、
 あれからものすごいやりまくりましたよ」
私は覚えていないが、お姉さんヅラして、
そんな遊戯を伝授していたのか。
何かもうちょっと上品な遊びはなかったのか。

幼い頃は毎年、夏休みや冬休みに母の田舎へ帰省した。
私も年上の兄弟がいないため、田舎のいとこのお兄ちゃんが憧れだった。
弟と奪い合うようにしてお兄ちゃんにまとわりついていた。
あれは小学2〜3年くらいだったか。
お兄ちゃんの部屋で2人きり、おはじきをして遊んでいた。
(おはじきって!! 昭和初期か?)
彼を独り占めしている女の幸せを噛みしめていたんである。
何か禁断の遊びをしているくらいの気分である。
(あくまで、おはじきなのだが)
しかし、幸せはそう長くは続かない。
舞い上がっていたせいか、冷え込む冬だったせいか、
私は小用を催したのだ。
お兄ちゃんの部屋は離れの2階にあり、
トイレは、庭をはさんで建つ母屋まで行かなければならなかった。
離れというのは、母が娘時代に住んでいたものすごく古い田舎家で、
1階には農耕機具置き場やかまどの土間があり、
2階からは、ほぼ直角の恐ろしい階段を降りなければならない。
行くのが非常におっくうであった。
この楽しい時間を終わらせたくなかったし、
何より、憧れのお兄ちゃんに「トイレに行きたい」と
言うのが恥ずかしかった。
そのため、正座している足を何度もモジモジ組みかえては
必死で我慢した。
しまいには、何も気づかず無邪気に遊んでいる
お兄ちゃんが恨めしくもなってきた。
こっちがこんなに切羽詰まっているのに、
大人の男(おそらく中学生)として察して
リードしてくれたっていいじゃないのよ。
んもぅ、鈍い人ね!

もういよいよ限界となった。
まあそんな行きたいわけでもないけど
遊び疲れてきたからブレイクタイムね、
くらいのノリで「ちょっとトイレ」と伝えたような気がする。
部屋を出た途端、いつもは怯える急階段もダッシュで駆け下り、母屋へ。
トイレのドアを開け、ホッとした私は・・・

万事休す。
トイレの中にいながらにして&小学生でありながら、
粗相をしてしまったのだ。
当然のことながら、家族親戚みんなに知られ、
お兄ちゃんは弟とともに私のことを冷やかし笑った。
トイレと言えないばかりに、これほどの辱めを受けることになるとは。

親戚の男の子がその田舎へ遊びに行く頃には、
もうみんな私たちは大きくなってしまい、
子供たちが大勢で集まるにぎやかな夏休みはなくなっていた。
だから彼にとっては何の楽しい思い出もないらしい。
私は、憧れのお兄ちゃんと、やはり20年以上会っていない。
いつの日か再会した際には、あの事件を覚えているか聞いてみようか。
彼にとってはきっとどうでもいいことだろうから、
覚えていないんじゃないかな。
ま、これに限っては私にとっても抹消したい出来事だし。

憧れる側は勝手に憧れ、トランプだのおはじきだののディテールまで
覚えているが、憧れられる側は何も覚えていない、そんなもんだ。
憧れる側は思い込みが激しく美化しすぎている分、
月日が経ってからその人に会った時の落胆もひどいもの。
ということは、先日会った彼は私にがっかりしたかもね。
だって25年だ。思えば遠くに来たもんだ。


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