近所の歩道を歩いていたら、
晴れ渡る青空に、糸のついたオレンジ色の風船が飛んでいるのが見えた。
ああ、誰か子供が手を離してしまって、
はるか彼方へと吸い込まれていくのだなあ、と思っていたら、
どういうわけか、ヨロヨロ〜っと降りてきて目の前に落ちた。
糸の先端に何か紙がくくられている。
これはもしや、子供からの手紙ではないだろうか。
この風船を拾った人は返事を下さい、みたいな。
春の空からふいに舞い降りてきた天使のメッセージ。
何だかちょっぴり幸せな気分。
よ〜し、返事、書いちゃおうかしら。ふふ。
私はそれを拾い上げ、ヒモをといた。
ちょっぴりドキドキ。
丸まった紙を開くと、なかには大人の字で一言。
山田のおばさん
私はしばし呆然とした。
呆然とする以外、どうしろというのだ。
だって、山田のおばさん、だよ。
いったいぜんたい何だっていうんだ。
私は、山田のおばさんと文通しようとしているのだろうか。
山田のおばさんが何か危険な目に今、まさに遭っており、
SOSを出すために風船を放ったのだろうか。
あるいは、山田のおばさんにこの風船が届きますように、
という超ピンポイントな願望を託して誰かが放ったのだろうか。
いや、放つつもりはなかったとすると、
何かイベントで、この風船は山田さん、こちらは田中さん、と
配られたのだろうか。しかし山田のおばさん、などと書くだろうか。
風船の糸を持ちやすくするため、手元にあった適当な紙に
巻きつけたのかもしれない。
しかしそのメモ書きは、山田のおばさん・・・が何なのか?
だめだ。とても手に負えない。
自分の想像力の欠如に苛まれそうだ。
再び糸を紙に巻き、そのへんの手すりにくくりつけ、
足早に立ち去った。
何も見なかったことにしたい。
妙な衝撃のあまり、写真を撮る余裕などなかった。
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