2012年10月9日火曜日

神保町の異邦人

先日、用事があって、神保町に出向いた。
約束の時間までしばらくあったので、そのへんをぶらり。
ご存知の通り、この界隈は古本など書店が連なり、学生街でもあるため、
東京のカルチェ・ラタンと称される。
軒先に積まれた全集などを物色する老人や学生、
そして時刻は13時近くだったので、
首から社員証をぶら下げたサラリーマンやOLたちが
ランチを終えてオフィスへ戻るタイミング、
あるいはそのへんのベンチで軽食を食べる人たちなども
まだ多くいて、街はにぎやかだった。
10月に入ったというのにまるで真夏のような太陽、
けれども日陰では、涼しく乾いた空気が密やかに流れ、
確かにもう秋が来ていることを感じさせる。

私は一人。ああ、この感覚。
パリかどこか外国の街を一人歩いている時の感覚に非常に近い。
というかほとんど同じだ。
私は今、ここ神保町で異邦人なのだ。
もちろん海外と違って日本語で通じるわけだが、
とりあえず誰とも言葉を交わしていない。
まったく初めての土地というわけではないものの、
滅多に普段は来ないため、
この街の地図を、流れを、しきたりを、知らない。
私が長年通勤していた青山とはまるで世界が違う。
それはある意味、完全な共通言語を持っているわけではないと
言えるのではないか。
不慣れな街はいくらでもあるが、
古本屋が立ち並ぶ独特の雰囲気と、
その風景を珍しくもなくあたり前として
日々を営んでいる人々の中に
もう会社員ではない私は一人いて、
加えて偶然にもヨーロッパに似た天気だったため、
そうしたいくつかの条件が重なって、
私は異邦人だった。

異邦人は限りなく自由で無責任で孤独だな。

そんな、淋しくも愉快な感覚にひたっていたら、
目の前に取り壊し中のビルがあらわれた。
上部をざっくりとえぐられた建物と、
黒く煤けて階層だけが残っている建物と。





















どれくらいの築年数だったのか知らないが、
おそらくはそんなに古くはないだろう、
少なくともヨーロッパとは比べものにならないはず。
やはりここは東京なんだな。
どうして壊しちゃうのかな。
そうこうしているうちに新しい建物は完成し、
人々はそれまでの風景をあっさり忘れるだろう。
つくっては壊して、人は何をしているのだろう。

写真を撮る私を、ガードマンが訝しげに見ている。
意外なものにレンズを向ける、それもまた異邦人ならではだ。

続いて私は適当に書店に入った。
たまたまそこは建築専門の書店だった。
新刊・古本が混在、そのセレクトや並べ方に
門外漢ながらも店のこだわりが感じられた。
最近はついネットで購入してしまうことも多いが、
書店の魅力は何といっても、書棚をぼんやり眺めるうちに
ふいに1冊が目に飛び込んでくる出会いだ。







『やわらかく、壊れる』(佐々木幹郎 著/みすず書房)。
サブタイルとは   都市の滅び方について  とある。
著者は、未来=廃墟を重ねつつ、ノマドの眼で世紀末東京をつぶさに観察・・・
まさに今の私の感覚にぴったりの本ではないか。

異邦人は土産を入手し、小旅行を終えたのだった。




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