2012年7月7日土曜日

ラテンといえども

これは授業のテキストではなくスペインの新聞"EL PAIS"の切り抜き。
通勤の電車内自習用だったので最近はやっていない。

今月で丸7年になる、スペイン語学習。
エライじゃないか、アタシ。
ここまで続いた趣味的なものは他にない。
とはいえ、以前は週2でやっていたのが最近は週1がやっと。
最初の2〜3年はそれなりにがんばっていたが、
この頃は予習も復習もしていない。
授業に行くまでの電車の中と、
先にカフェに着いて先生を待つ30分間に
大慌てでテキストの中のわからない単語を電子辞書で引く。
なので当然、ちっとも上達していない。ってエバルナ。
実はこのブログと同時にスペイン語版(内容は別の話で)
も立ち上げたのだが、1回きりで続いていない。
情けないったりゃありゃしないねえ。

先生は在日ウン十年の60代スペイン人男性。
"陽気でオープン、情熱的、歌って踊ってオンナ好き"
などというのがよくありがちなラテン人に対するイメージだが、
実際には決してそんなことはなく、人それぞれ、
むしろ意外とおとなしく真面目でシャイな人や
ネガティヴな人も少なくないということを、
私はスペイン語を習うようになってから知った。

ある時、カフェでレッスンを受けていたら、
流暢な発音を自慢するかのように
バカでかい声で英語を教えている日本人の女講師がいた。
席はだいぶ離れているにも関わらず筒抜けである。
一方、わがL先生は元々声が小さい。
「ウワァオ、グゥ〜ッ、イッツナイス〜」
(↑他にもなんかベラベラ言ってたけどそれは再現できない)
みたいな奇声にかき消されてしまう。
しばらくは我慢していたが、どうにもこうにもひどい。
先生も小声で「ウルサイデスネエ」と言う。
私は立ち上がった。すると先生は怯えた目で私に
「ドコイク?」と聞く。
アゴで「アイツ」とゼスチャーしたら
先生は必死で首を横に振り、「ヤメナサイヤメナサイ」。
しかし、私はウワァオ女に注意してやった。
中指立てて悪い言葉の一つや二つ吐き捨ててみたかったが、
そこはその、ヤマトナデシコですからね、もう少しお上品に注意しましたですよ。
席に戻ると「アナタハニホンジンジャナイネ、ボクニハデキナイ」。

最近知り合いになった、webデザイナーは偶然にも
アルゼンチン人男性(スペイン語圏)である。
欧米流に、私は早速「A-san(Aさん)」とファーストネームで呼び、
メールの冒頭もそのように書く。
1回くらいはつい勢いで呼び捨てで送ったこともある。
ところが彼は私に対し、毎回「Watanabe-san」と書いてくるのだ。
スペイン語の場合、丁寧な「あなた」とラフな「君」では
それぞれで動詞が違う。
L先生に対し、私は「君」呼ばわりでメールを書き、話す。
日本語ではもちろん敬語で話しているので、
先生にタメ口きくのは最初、気が引けたのだが、
スペインではあたり前で、むしろ丁寧な「あなた」だと、
よそよそしくて冷たく感じる、と先生から言われたのだ。
だから、たいていの人はすぐに「君」にして欲しいと思っている、
はずなのだが、Aさんは私に対し「あなた」のほうで書いてくる。
なので、私もそうしているが、今さら名字のR-sanに変えるのも
どうかと思い、そこだけはラフなままだ。
つまり、
「こんにちは、太郎。あなた様にデータをお送りしますので
ご確認の程よろしくお願い申し上げます」
と言ってるのと同じだ。どう思われているだろうか?

私だってもちろん、Aさんに対して友達とは思っていないから、
AさんよりRさんのほうが本来の感覚的にはしっくりくる。
日本人の仕事の相手を名前で呼ぶことはないし、
年下であっても仕事相手であればたいていは敬語を使う。
しかし、相手が外国人であれば、そちらの風習に合わせる。
その気遣い?が自分はいかにも日本人的だと思うが、
Aさんもまた、本当は名前でフランクに呼びたいが
日本のやり方に合わせているのだろうか。
AさんもL先生も、見るからに真面目で、もの静か、
ちっともコッテリ暑苦しい感じがない。
女の子の耳元で「踊り明かそうぜ」なぞ言ったこともなさそうだ。
そういう(ちょっと変わったラテン)人だから日本になじむのか、
あるいは、日本に長くいることでラテンっぽさが抜けていくのか。

逆に、これはまさにラテン男だから?という出来事もあった。
2年前にスペインへ取材に行った時、
バルセロナの現地カメラマンと初めて仕事を組んだ。
初日の昼間、レストラン1軒を取材した後、
私が泊まるホテルまで車で送ってもらった。
その夜はちょうど盛大なお祭りだったので、
その様子を一緒に撮影しに行こう、ということで、
私はチェックインして部屋に荷物を置き、
その間、彼は車を止めてフロントで待っているということに。
誰かが部屋のドアをノックするので開けると
どういうわけかそのカメラマンが
あたり前のようにズカズカと入ってきた。
なんで部屋がわかったのだろうか?
まあそれはフロントで聞いたのかもしれないが、
このホテルは部屋のカードキーを差し込まないとエレベーターが
動かない仕組みなのに、どうやってここまで来たのか?
セキュリティ意味ないじゃん。
そしていったい何しに来たのか?  聞きたいことはいろいろあるが、
それらをスペイン語に置き換えている余裕が私になかった。
とにかく早く部屋を出ようとすると、
「外はすごい人混みだから、そんなに荷物多く持ってると危険だよ」と言う。
外よりあんたのほうが危険ってことはないのか?
私が荷物を減らしている間、
彼は窓の外をのぞいたり部屋をウロウロ探索している。
ジャー。
ん? ジャーって何かしら?
いつの間にヤツは浴室に入り用を足して、何食わぬ顔で出てきた。
ちょ、ちょっとぉぉぉ、アタシだってまだ中を見てもいないのに、
何を勝手に使ってんのよ!! 行きたかったら1階にあるでしょうに!

と、憤慨を表現したかったのだが、結局何も言えなかった。
言葉に自信がないということもあるにはあるが、
たぶん、そのせいだけではない。
L先生よりはラテン度が高くとも、やはり私はラテン女ではないのだ。

その旅で取材したカタルーニャの3ツ星
「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」のジョアン・ロカシェフは、
物腰やわらかで静かな語り口、細やかな神経の持ち主で、
これまたラテン的イメージとかけ離れていた。
一方、今はクローズしている「エル・ブジ」のフェラン・アドリアは、
丸い眼を更に見開いて、身振り手振りを交え、
ガラ声の早口でまくしたてるように語るところが
情熱的でラテンっぽいと言えばそうではあるが、
親近感は感じなかった。奇才シェフはこちらを
見つめてはいても、目の奥で何か違うものを見ていた。
エル・ブジで私が食事をしたのは2000年、
生まれて初めてのスペイン訪問でもあった。
その後、彼が来日した際に1回インタビューをした。
更にその数年後、今からは5年程前に、
アンダルシアでやはり短いインタビューをした。
その時に、私は習って2年目のスペイン語を少しだけ披露した。  
「おや、何でスペイン語を話せているの?」と彼が聞くので
「あなたと話すために勉強したんですよ」と言ったら、
「ええっ?」と怪訝な顔をされた。
ラテンなBroma(冗談)を言ったつもりだったのにな。

さて、今日はこれから授業だ。
文法主体で、カジュアルな会話やましてや悪い言葉など
教えてはくれない真面目一筋の先生の授業、
あとどれくらい続けたものか。

しかし私は知っている。
カフェでとなりの席に若い女の子が座ったり、
女性店員が通ったりすると、
先生はすかさずチェックしていることを。
やはりラテンの血が流れている。
え? 男なら国に関係なくみんなそう?

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