2014年11月19日水曜日

食べる人

食べる人がいる。
私は食べない。食べられない。
あなたは食べる人?
何を?

電車の中で人目もはばからず耳や鼻をほじる人がいますね。
耳をほじる人のおそらく半数は、その指先のニオイを嗅ぎます。
鼻をほじる人のおそらく半数は、取り出したモノを食べますね。
これまでに何人も見てきましたからね、事実である。

帰りの混雑した電車で、
立っている私の目の前に座っていた若い女子。
肩につくかつかないかくらいの黒髪ストレートを七三分け、
メガネをかけ、大きなバッグを膝にのせ、その上で本を広げている。
垢抜けない地味な大学生といった感じ。
特にどうということもないはずだった。
しかし、彼女は本のページをめくる人指し指をおもむろに鼻の穴に突っ込み、
取り出して口に入れた。

爪をかむ女は見るけれど、鼻ほじり&食べる女というのは珍しい。
たいていは男だ。
さらに、その先の行為は想像を絶するものだった。
鼻のモノをひとしきり食べた後、爪を歯と歯の間に入れ、
そこに詰まっているらしいモノを取り出してニオイをかぎ、それを食べた。
前側の歯から何も取れなくなったのか、奥歯にまで着手し、
同様の所作を繰り返す。
時折、古巣の鼻に戻りつつ、たまに耳も加えつつ、
髪の生え際、頭頂部へとまさに食指が動いていく。
まるで指先についたケーキの生クリームを舐めるかのように、
美味しそうに食べている。
まるでバラの花の香りをかぐように、ニオイを堪能している。
視線はあくまで本に落としたまま。

自分から出た分泌物をまた自分で食べる1人リサイクル。
サルが毛づくろいしながら食べているのはノミではなく、
塩分を含むフケのようなものらしい。
彼女も天然の塩分を無意識に欲しているのか。



私は自分の胃がざわつくのを感じながらも、
どうして彼女は食べて、自分は食べないんだろうかと思った。
よく、幼い子は鼻をほじって食べるが、
その行為は恥ずかしい、汚いものだと教えることでやらなくなると聞く。
自分はそのようなクセがあって直されたかどうかは覚えていないが、
少なくとも物心ついてから今に至るまで、
本当はやりたいけど恥ずかしいからやらないわけではない。
いくらでも人に見られずやるチャンスはあるのであり。
食べ物じゃない、汚いモノだから、に尽きるわけだが、
あんなふうに堪能している姿を目の当たりにすると、
ひょっとしてすごく美味しいのではないか、
試さずに無理だと思っている自分はただの食わず嫌いではないか、
一生経験せずに終わっていいのか、という気さえしてきた。


さすがにもうこれ以上ほじれるところはないだろうと思ったが、
彼女はメガネの中に指を入れ、まつ毛の粘膜をなぞり始めた。
そんな掘り出しモノがあったのかと感心しつつ、
私の乗り換え駅に着いたので、その次の行為は見ないようにして降りた。
やっぱり、経験せず終わろう。



0 件のコメント:

コメントを投稿