2014年8月2日土曜日

朝の電話

一日の中で最も健全な空気に包まれている朝にかかってくる電話は
どうして不吉な予感がするのだろうか。
昔の黒電話に比べたら、電子メロディ音はそれほど怖くないけれど、
それでも、なぜか、ドキリとさせられる。
昨日の朝の電話は母からだった。
「あのね、お父さんが夕べ、救急車で運ばれて・・・」
普段と違う、ゆったりとおだやかな口調が、怖さを助長する。
次の言葉を聞くまでの1秒かそこらの間、
私は「死んだのか。ある日突然、こんなふうに親の死がやってくるのか」と思った。
ベタなドラマのワンシーンのようだった。

結局、命に関わる程ではなかった。
熱中症とはまた違う病状ではあるが、ある種そのようなもので、
体力が回復するまでの間、入院ということらしい。
入院するにあたり、関係者3人の電話番号を病院に登録する必要がある、
それで万が一、私のほうにかかってきてびっくりするといけないと思い知らせた、という。
もし連絡先の登録がなかったら、おそらく昨日の電話はなく、
退院後の報告だったに違いない。
うちは、そういう家である。

そのため、まだ病院には行ってない。
父の身の回りの世話は母が行っているので、
私は後方支援担当として、母のための食事をいろいろ作り、弁当にして届けた。
父用に、小さいブーケと、100円ショップで購入した花瓶代わりのグラスを母に託した。
大げさなこと、贅沢を嫌う父なので、あえてささやかにしている。

どういうわけか、ブーケをほどき始める母。
「何しているの? まさかここで花瓶に挿して持っていくんじゃないでしょうね?」
「えっ ? あ、これ、お父さんにあげるの?」
私は家に着いて開口一番、「これ、お父さんに」と言ったのだが
それが母の耳には聞こえていなかった。
しかし、母の日でもないのに、ましてやこんな時に、
実家にブーケを花瓶つきで持っていくことをなぜ不思議だと思わないのか。

病院から入院に必要な物リストを渡され、それに従って持って行ったのに、
父は「こんな物いらない」とフォークやら何やらをはねのけたと言う。
そのため、花なんぞ不要の極みと、母は無意識に感じていたのかもしれない。


来週また弁当を届ける日があるならば、母にも花を買っていくかな。
私には、そのくらいのことしかできない。
優しい言葉をかけることができない、娘というより無骨な息子のよう。
朝の電話がないことを密かに祈りつつ。
でも、いつの日か、そう遠くない日に、その朝はやってくるのだ。





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