2014年5月16日金曜日

レシピ・レシピ・レシピ

この2カ月間、いや、今年に入ってから今日まで、
私はいったい何をしていたのだろうか。
その大半を椅子に座り、PCを見続けて過ごしてきた。
もちろん、撮影や取材で出ていく時もあるにはあったけれど、
あるいは料理の試作に明け暮れていた時期もあったが、
圧倒的に原稿に向かっている時間が長かった。
人の書いた原稿のチェック、自分の執筆、校正、
一番多い作業はレシピ原稿の作成である。
レシピ、レシピ、レシピ。
1日10数時間ぶっ通しでレシピ作成をしている日もざらだ。
なんだか、自分がひどく不器用な人間の気がしてきて、
「自分、不器用ですから」と健さん風に心の中で呟いてみたりするが、
アレはできる人だから味のある言葉なんであって、
今の自分はただ単に仕事能力が低い人間なんじゃなかろうか、
そろそろ「体力の限界」と引退宣言すべきか、と
3時間に1回の休憩で庭に出て軽くシコを踏みつつ考える。
まだ40代だから働き盛りってやつなんだろうけど、
このところのあまりの忙しさに、燃え尽き症候群になりそうでこわい。
根の部分がナマクラなので、ふっとヒマになった時には
どこまでも自堕落になれるだろう。

レシピの文章というのは特有のものがあり、
一つ一つの表現を気にし出すと、際限なく検討すべきことがあわられる。
例えば、
「フライパンにオイルとスパイスを入れて強火にかける」
「フライパンを強火にかけ、オイルとスパイスを入れる」
「フライパンを強火にかけ、オイルを引き、スパイスを入れる」
など、同じ動作でもいろいろな書き方ができる。
どの言い回しが一番ふさわしいのか、考える。
そして、AならAと決めると、他のページも同じタイプの料理であれば
統一をはかる必要がある。
作り方1・2・3という順も、実際の手順としてどうするのが一番スムーズなのか、
1番でまず、下ごしらえ的な玉ネギはみじん切りにする、トマトはざく切りにする
といったことを書く方法もあれば、
2番や3番でみじん切りにした玉ねぎを入れ、と流して書く方法、
あるいは材料の欄ですでに 玉ねぎ(みじん切り)と書いてしまう方法もある。
できるだけ親切に書きたいが、そうするとレシピの文字量は増えてしまう。
1冊の本で何十品とあるので、初期の頃に書いていたものと、
後半では少しタッチが違ってしまう場合があり(と言っても微妙な違いですよ)
またそこで、どちらの表現にすべきか、と考える。

書き方だけではない。
にんにく1片、ショウガひとかけらというのは何gくらいを指しているのか。
トマト1個と言ってもかなり幅があるのである。
多少違ってもOKなレシピであればむろんいいが、
ある程度厳密さが要求される場合には1個と書くよりg表記したほうがいい。
しかし、トマト1個が何gくらいなのか、パッと答えられる一般の人は
そう多くはない気がするので、何gだけでなく約1個などと書き加えたほうが
見当がつけやすいとも言える。
著者から「27g」のような、一般の人からすると
中途半端な分量が出されることがあり、
できればこれをきりのよい30gにしてはダメか?といった調整もはかる。
普段は買わないような食材をわざわざレシピのために購入して、
使用するのはわずかな量で残りはどうすればいいのか?というのも困る。
ようするに、どこまで親切にするのか、の線引きが難しい。
親切心で文字数が多くなっているのに、見た人からすると
「レシピが長くて難しそう」となり、苦労は水の泡である。
配合や作り方を平易にしていけばいくほど、旨さが置き去りにされる。
と、突き詰めていくとキリがないのであります。

しょせんレシピはレシピ、微妙なニュアンスはレシピではわからない、
と言う人もいる。確かにそうだと私も思う。
思うからこそ、いかにして限られたレシピの中で
ニュアンスを明確に伝えられるか、限界に挑戦しているとも言える。
クックパッドのような、インターネットのサイトで
いくらでも無料でレシピが見られる時代、
わざわざお金を払って買ってもらうのであるから、
素人の投稿の、ゆるく、そして私から見たら
「まずそうだな」「これはおかしい」
と思うレシピと同等であってはいけない。
これくらい徹底してチビしくやって当然、と思うことにしよう。

しかしまたその一方で、従来のレシピの型から抜けて、
もっと新たな表現方法を模索したいとも思う。
限界に挑戦するのではなく、その型を打ち破らないと
クリエイティヴではなくただの事務作業になってしまう。
その先のレシピへ、だ。




2 件のコメント:

  1. 「自分、不器用ですから」と健さん風に心の中で呟いてみたりするが←ここで吹きましたw

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    1. 「古いヤツだとお思いでしょうが」・・・。

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