2015年12月13日日曜日

遺伝子検査(後編)


遺伝子検査(前編)

検査の結果が返ってきた。
といっても何か書類が送付されてくるのではなく、webのマイページで見る形である。
「病気」と「体質」の2分野に分かれており、まずは「病気」を見る。
147の病気に対し、私が将来かかるリスクが日本人の平均に対しどれくらいの倍率か、
示されている。
147項目中、矢印が横向きの1倍リスク、つまり日本人として平均的なものは6項目だった。
一方、平均よりリスクの少ない0.99倍以下が83項目、1.01倍以上は58項目。
どうなんでしょう、まあまあ健康なタイプと言えるんすかね?
個々の病気に対しての簡単な説明はあるが、
総合評価は書かれていないので分析ができない。

では、2倍以上のリスクがあるワースト6を発表しよう。
第6位 アトピー性皮膚炎 2.13倍
第5位 心房細動(不整脈の一種)2.17倍 
第4位 末期腎不全 2.33倍
第3位 βサラセミア 3.01倍
βサラセミアって何だ?
コメントを見ると、
「βサラセミアのかかりやすさではなく重症化するリスクの検査」となっている、
これはヘモグロビンの低下による貧血の一種、だそうだ。

第2位 ハンセン病 3.44倍
おっと、ここにきてリスクの倍率がだいぶ高くなっているが、
「現在の日本では新たな感染者はほとんどなく、
早期治療すれば後遺症を残すことなく治癒する」とある。

第1位 もやもや病 4.03倍 

栄えある??第1位だけがいきなりの4倍台である。
以前、徳永英明がかかったと聞いた気がするこの病気、
「5歳前後あるいは40歳前後の成人に多く発症する」んだそうだ。
「脳の動脈が何らかの原因で細くなったり詰まったりする疾患」で、
「血液量を保つために拡張した細い血管の血管網が、
煙がもやもやしているように見えることから」この疾病名がついたのだそう。
日本で発見されたため、海外の医療現場でも「moya-moya」で通るらしいんだが、
他にいい名前なかったかね? 
日本人の場合、誰が聞いても「精神的に晴れない」病と勘違いするのではないか?
外国人の場合も、何だかちょっとふざけているみたいだし。
ちなみに他の脳の血管に関わる病のリスクを見ると、
脳梗塞(アテローム血栓性)0.78倍、脳動脈瘤0.71倍、
脳梗塞(心原性)0.65倍と、こちらはむしろ平均より低いのである。
ということは、脳の血管の病全般がかかりやすいのではなく、
明らかに「もやもや病」にかかる可能性が高いということか。

もう一つ気になったのは、
肥満2度は0.91倍と平均以下なのに対し、

肥満1度は1.21倍、肥満度3が1.78倍とはこれいかに?


続いて「体質」のページに移る。

こちらは125項目ある。
検査項目に対し、低い・中間・高いといった3段階で示されている。
加えて、日本人における割合の度合いが少ないものから並べられ、
最後のほうになると100%、つまり日本人はみなその傾向にある、というものになる。
で、私の場合、トップにある項目は「体脂肪率」「体重」「肥満の指標(BMI)」で
そのすべてが「高い」「重い」「高い」である。
先ほどの肥満度3に対する合致か。
こ、これは激しくショックだ。
体脂肪率の項目をより詳しく見ると、
日本人100%のうち、やや低いタイプは66.3%、やや高いタイプは30.3%、
そして私が当てはまっている「高いタイプ」は、なんとたったの3.5%しかいない。
「体重」や「肥満の指標」についても同様に3.5%とマイノリティなのだ。
私は子供の頃はガリガリだった。
20代になっても、まだ痩せているほうだった。
30代後半くらいから、だんだん贅肉が落ちなくなって、
今は確かに人生の最大体重を更新し続けていることはいるが、
肥満と言われたことはない。
後天的な生活習慣によるものだと思っていたのに、まさか先天性の素質あったとは。

その後に続くのは
タンパク質の摂取傾向」高い3.7%、
「目の角膜の厚さ」やや薄い4.3%。
目は確かに黒目が薄い色なのでそういうことかなと思うが、
タンパク質の摂取が高い遺伝子ってなんなんだ、それは。
説明を読むも、結局のところどうすればいいのかはよくわからないのだが、
日本人の65.3%はタンパク質の摂取がやや低い、31%はやや高い、だそうなので、
3.7%は珍しいタイプなんだろう。

「テロメアの長さ」長い10.2%。
日本人の46.4%がやや短く、43.4%がやや長い中で、長いは10.2%と少ない。
テロメアとはなんぞや?
「染色体をヒモとすれば、テロメアはそれをとめる金具のようなもの」で、
「テロメアが短くなると染色体は不安定になり、最終的には細胞は分裂をやめる」
それがつまり細胞の老化ということだ。
テロメアが長いのは老化のスピードが遅いタイプということですな。

テロメアでちょっとうれしくなったのもつかの間、
「身長」低い「胸」小さい「腰のくびれ」目立たない 
え? なんですか、これは。
するってーと、体脂肪率は高くて背は低く胸も小さくて腰はくびれていない、
あたしゃマトリョーシカか。
あゝ、生まれながらにして「チミはザンネンな体型ですね」と宣言されたようなものだ。
しかし、身長はこう見えて日本人女性の平均なのですよ! あってないじゃん! 
え?他2つはどうか? 
知らん!!

「病気」と「体質」それぞれに、鍵がかかっている項目がいくつかある。
本当に見てよいか、というような覚悟を確認するメッセージがあり、
OKをクリックしないと進めないようになっている。
そんなに恐ろしい結果が待っているのか。
しかしもう、マトリョーシカ宣告されている私には、
何も怖いものなんてありゃしねーぜ。
いざ開けてみたら、そのほとんどがさほど極端な数値でもなかったので、
余計に肩透かしだ。鍵のかける項目を間違っとるぞ。
ただ、一つ、「85歳以上まで長生きする可能性」については、
日本人の86.3%がやや高い、0.5%が低い、そして私は13.2%のやや低い、だった。
へぇーそうか、長生きするタイプではないのだね、私は。
まあ、いい。そうとわかったほうが、これから残りは約30年と思って、
もう少し有意義に生きていこうと思えるし。


この他にも、
「アスパラガスを食べた後の尿から独特の臭いを感じ取る能力」
「麦芽の香りを感じる能力」「苦味の感じやすさ」「光くしゃみ反射」
といった項目まである。
が、検査結果が出た後、この機関から時々メールが送られてきて、
「記憶力」「粘り強さ」「親切心」「打たれ強さ」「音感」など、
追加の検査結果を1項目500円で、唾液の再提出なしにすぐにお知らせします、という。
かー、なんという商売だ。まさに新手の占いではないか。
そういう、いかにも興味をそそるような検査項目を基本には入れず、
ワンコインという絶妙な価格設定のオプションで後出ししてくるとは、
やり方がこすいのぉ。
人の検体を弄んでやしないか。



2015年11月19日木曜日

祈り

私は、暗闇で、寝ている。
横になってはいるが、眠れない。
私の冷たく小さな足を、父の温かく大きな足がはさみ込む。
「あるところにギーギーとガーガーがいました」
父の即興の愉快な物語。

私は、暗闇で、寝ている。
深く寝たような、夢うつつだったような。
今は果たして何時なのか、わからない。
玄関の音がする。
父が帰ってきた。
母が私の容体を報告している声がする。
部屋のドアが開き、光が差し込む。
私は寝たふりをする。
父の冷たい手が、私の熱い額にあてられる。
何も言わず、光のほうへ、スーツの背中が去っていく。

遠い、昔の思い出。



昨日の明け方、不思議な夢を見た。
母が、純白のウエディングドレスを着ていた。
若い頃の母ではなく今の母だった。
父もいたが、どんなだったか、起きた時には忘れていた。
ちょうどその頃、父は永遠に旅立った。

父はいま、白い真綿に包まれて、横たわっている。
私は、おそらく初めて、父の額に手をあてた。
私の手は少し冷えていたけれど、それでも父の額よりは温かい。
私の手は少し震えていたけれど、父の額は微動だにしない。

私はいままで父を温めてやることはできなかったし、
これからは、まったくできない。

どうか、父の眠る場所は闇の中ではなく、光の中であるように、
ただ、そう祈ることしかできないのです。



2015年11月15日日曜日

Mon Salon 発売!!

まいど、宣伝でございます。

スクールとサロン経営とセンス磨きのためのスタイルMook、
『Mon Salon』(誠文堂新光社)が発売されました。

http://www.amazon.co.jp/Mon-Salon-No-01-スクールとサロン運営とセンス磨きのためのスタイルMOOK-SEIBUNDO/dp/4416715021/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1447567889&sr=8-1&keywords=モンサロン





同業者のT子さんより仕事を回していただき、
私は巻頭インタビュー記事の
藤野真紀子さん、丸山洋子さん、藤枝理子さんを担当いたしました。


日頃はシェフや外食店の取材が多いため、
今回の仕事はなかなか新鮮だった。
美しい自宅のサロンで、紅茶やお菓子などを教え、
その後にお茶を飲みながらお喋りに花が咲くひとときが楽しい、
そんな優雅なお話を聞く間、
私は「へーへーほぅ〜」と、
ただひたすら、与作のような相槌を打つばかりでありました。
なぜだろうか、こういう時、私は自分が女ではないような気がする。
さりとて木こりでもないとは思うけれど。

個人のサロンが流行っているのは、
主婦業を中心にしつつ、何らか社会と関わりを持ちたいという女性と、
お稽古ごとをしたいが、弟子のように厳しく教わるのではなく、
ゲストとして丁寧におもてなしされたいという女性、
双方のニーズが合致しているからだろう。

ちなみに私が大人になってから通ったお稽古ごとは、
スペイン語を別とすると、20代の頃のお菓子教室がある。
どれくらい通ったのだったか、1年いや2年か、
今にして思えば、その先生は「サロネーゼ」のはしりだった。
有名なお菓子研究家のお弟子さんの一人で、
ヨーロッパでの研修経験もあり、
一軒家の自宅の一室を教室として使用されていた。
お菓子を作った後は、紅茶とともに試食をした。
先生の口調は「ごきげんよう」な感じだった。
そうか、私も20年以上前にサロネーゼしてたんじゃん。与作じゃないじゃん。

けれど、私の場合は、個人的な趣味というよりは、仕事上、
プロの料理人やパティシエ相手に取材するため、
本格的な菓子のプロセスやコツを知っておきたいからというのが動機だった。
(もちろん料理も本当なら習うべきだっただろうが、
 お菓子の技術のほうが見えない部分が多かった)
そして、スペイン語もそうなのだが、
基本的にグループレッスンが苦手で、お菓子教室もマンツーマンを選んだのだ。
先生が私の作ったお菓子を味見している間、
「ど、どうでしょうか・・・」と、審判を待つ身。
優雅にみなさんとの会話を楽しむという経験はない。
サロネーゼにはナレネーゼ。
与作は独占欲が強くて質実剛健派なのである。
ホーホー。





2015年11月1日日曜日

遺伝子検査(前編)

いつもの新聞集金。
お兄さんは「お知らせがあります」と、1枚のチラシを差し出してきた。
「遺伝子検査、身近になりました。」

テレビなどで見て、ちょっと気になってはいたが、
高そうなので、手が出せずにいた。
が、今ならば、県の助成で40%引きだという。
それでも税込1万9310円するのだが、
この頃、親が弱って何かと世話する機会が増え、
自分自身の身体のリスクも何かわかるのであれば、
調べてみたいと思った。





申し込むとすぐにキットが届いた。
人間の細胞の中には30億文字の遺伝子情報が収まっており、
それを読み取って、体質や将来の病気の傾向などを解析、
3大疾病を主に280項目もの検査結果が出るという。
しかも、検査に使う細胞とは、唾液から取るのだ。
指先を画びょうのようなもので切って血液を取る検査を何かで見たことがあるのだが、
唾液であればチクリも何もない、一番ラクな検査ですねえ。

レモンの写真のカードが入っていて、なんじゃこれは?と思ったら、
唾液をいっぱい出すのに使っておくれということだ。
おそらく海外仕様なんでしょうね、
日本人だったら梅干しの写真のほうが
もっと唾液が出るのではないかなあと思うが
それは私だけかしらん。




こちら(中央)が唾液を入れる容器。
黒い線のところまで唾液を入れるように指示があるが、結構な量ではないか?
改めて考えてみると、歯磨き以外に日頃、
ただ単に唾を吐くという行為をしたことがない。
ええ、ホントですよ、一応アタクシも女子でございますからね。
なので、意外と難しい。
勢いをつけてキレよく吐こうとしても、容器の口が狭いので躊躇してしまう。
じわーっと吐くと、ヨダレが垂れるみたいな感じになってしまう。
が、どうやら容器は上げ底になっているのか(白いフィルムで見えない)、
それとも唾液の量が多いのか、6、7回程度でボーダーラインのところまできた。
レモンのお助けカードを見ないうちに終わった。
泡立っていて、自分の唾ながらキモい。
こんなキモい液体の中に、未来の私の身体のデータが本当に入っているのか?
上の漏斗をはずし、写真左にあるキャップを強く締めると、
中の青い液体が唾液部分に落ちるのでよく振って混ぜよ、とある。

すでにポストに投函してきた。
検査結果は2週間くらい後になるらしい。
さあて、どんな結果になるのかな。
ちょっぴりコワイけれど、
まあ、新種の占いみたいなもんだと思えばいいか。
それにしてはコストがかかり過ぎているか。








2015年10月27日火曜日

親を病院に連れて行く

昨日、母と耳鼻科に行った。
いや、正確には「母を耳鼻科に連れて行った」。
耳が遠くなったことを認めない母を何とかなだめ、
ようやくここまでこぎつけたのである。

その病院は、インターネットで予約が可能なのだが、
初診だけは直接窓口に行かなければならない。
朝10時に行ったところ、すでに45番、
1時間か1時間半は待つとのこと。
進行状況もネットで見られるというので、
いったん親の家で待機することになった。
今どき、老人たちもネットができないと病院でも苦労することになりますね。

そんなにかかるのであればパソコンを持ってくるんだったな。
原稿の締め切りが近く、仕事はいくらでもあるのだ。
しかし、待つ間、今度は父が自身の病状についての愚痴を
ブツブツと私に漏らし続けている。
私は目を合わせることもなく、何となく相づちを打ちながら
iPadで耳鼻科の進行状況をぼんやり眺めていた。
もう父は、死ぬまで体調のことだけをテーマに生きていくのだろうか。
これといってやることもなく、それならばそれである意味、
体調の話が生きがいと言えるのだろうか。 


11時半近くにもう一度病院へ行ったが、
結局45番が呼ばれたのは12時だった。
検査の結果、やはり中度の難聴だった。
補聴器をつけることを医者が強制的に指示することはできない、
あくまで決めるのは本人次第だと前置きしながらも、
軽度ではないことは確かだと言う。
母も観念したようだ。
病院のすぐ近くに補聴器専門店があるので(ちゃんとコバンザメ商法しているなあ)
明日にでも行ってみるという。

これで父の愚痴リストの中の一つがとりあえずは消えるだろう。
しかし、父も私も「お母さんのためなんだから」とくり返すが、
本人は困っていないし、できればつけたくないのだ。
だから、本当は母のためではなく、
母と会話する私たちが不自由だから、というのが正しいのかもしれない。


幼い頃、耳鼻科によく連れて行かれた記憶がある。
耳鼻科は恐ろしいところだった。
医者が額につけていた、真ん中に小さな穴のあいた円盤の鏡や、
耳や鼻をグリッと開くペンチみたいなオドロオドロしい道具が並び、
それを見ただけで震え上がったものだった。

昨日も、診察室から幼い子の号泣が何度も聞こえた。
診察室に入る直前、母は緊張をほどくように「フーッ」と肩を上下させて一息ついた。
私は緊張していなかったが、親を病院に連れて行くという初めての体験に対し、
これからも、親と子が逆転していく、いくつもの初体験があるのだろうなと思った。




2015年10月17日土曜日

今年も「味覚の一週間」

10月19日より「味覚の一週間」が行なわれます。
その活動の一企画「味覚の食卓」の編集の仕事を担当いたしました。
今回で3回目の任務です。
「味覚の食卓」は、この活動に参加しているレストランに、
五味を味わえる料理またはスイーツのレシピを1品、
料理写真とシェフのポートレートと共に提供いただき、
私はそのレシピをまとめる担当。
期間中、レストランを訪問したお客さんに、レシピカードが配布されます。
今年は100軒を超えるレストランのシェフに参加ご協力をいただきました。

サイトはこちら。

http://www.legout.jp


今年の参加店一覧を先に出しておくべきではないかと毎年思うんだけれど、
なぜかイベントが終わってから更新されるようです。
そのため今は2014年度の参加店一覧になっていますね。









2015年10月12日月曜日

目が黒くなる、って言いたいんですよ

9月からおかしい。
私の体の左側、背中から腕、手首に至るまでが痛くてたまらない。
元々、ひどい肩こり症ではあるが、
いつもの「こっている」つらさとは訳が違い、
とにかく「痛い」のである。
これがいわゆる四十肩? 五十肩?とも思ったが、
その場合は、腕を上げることができないらしい。
私の場合、朝起きた時が一番痛みがひどく、顔を洗う体勢は悲鳴が出るほどだけれども、
それ以外の時間帯は、腕を上げたりまわしたりなどは普通にできる。
一定方向に腕を動かすと痛みが走るというわけではなく、
何もしていない状態で、常にズキンズキンと痛むのだ。

耐えきれず、9月の中旬に2回、近所のカイロプラティックに行った。
それでも治らず、整形外科に行った。
待合室では、私以外の患者すべてが高齢者。
ミネラルウォーターサーバーから水を注いで飲んでいるおばあさんに、
別のおばあさんが「これは何か体に良い飲み物なんですか?」と聞いている。
「わかりませんが、ご自由にとのことなのでいただいてますの」
「では私も。(ゴクリ)あらほんと、なんか効きそうな味わいですね」
何が「ほんと」なのかわからないが、信ずるものは救われるといいですわね。

首のレントゲンを撮ったところ、ストレートネックだと診断された。
そして、首の軟骨がすり減って骨と骨が当たり、それが神経にさわって腕にまで痛みが
及んでいるのでしょう、と早口でそっけなく若い医師は言う。
鎮痛剤と筋肉の緊張を緩める薬を胃薬と共に処方された。

2日ほど飲んでみたものの、わずかにやわらいだような気がする程度で、
相変わらず痛みが続いている。
また病院に行ったならば、今度は注射を打つことになる。
あくまで痛みの緩和であり、根本的な治療ではないだろう。
薬嫌い、病院嫌いの私は、「あら、ほんと。治ったわ」という気持ちにはなれない。

そんな折、某有名シェフとフレンチレストランで夕食の席をともにした。
私の左腕の事情を話すと、すごい気功師を知っていると言う。
どんなに具合が悪い状態でも、その人のところへ行けば1回か2回の治療で必ず治る。
行きはタクシーから這うような状態が、帰りは身軽に歩けるくらい。
⚪︎⚪︎料理長(和食の老舗有名店)は、けんしょう炎で包丁が握れなくなったのに、
一発で治ったんだよ、と。
こちらが何も言わなくても「ゴルフやったでしょう」などと見透かされてしまうそうだ。
それほどのスゴ技にして、1時間6000円と料金は一般的。
私は「是非ともその方を紹介して下さい!」と懇願し、電話番号を入手した。

シェフからの紹介ということで、翌日に診てもらえることになった。
都内某所、普通のマンションの一室(おそらく自宅)。
出てきたのは、ペギー葉山の旦那の根上淳と美味しんぼの海原雄山を足したような、
濃い顔の60代くらいの男性。
白い袈裟のようなものを着て、髪を一つに結わえている。
怪しいっちゃ怪しいのだが、
なにしろ、シェフたちのお墨付きなのであるから、間違いはないはずである。

左側を上にして横向きに寝るように指示される。
シェフから「背後に回られてじーっと手かざしされるからナンだけれども
気にしなくてよろしい」と言われていた通り、
センセイはうしろから、私の腕や肩に触れるか触れないかくらいの距離で
手を動かしている。

ちなみに、私は気功初体験ではない。
20代の一時期、今でいうところのパニック障害に陥ったことがあり、
その時に中国人の気功師のところにしばらく通っていた経験がある。
目をつむって気功を受けている間、こめかみや唇など、
顔のラインにビリビリと弱い電流のような、むずかゆい何かを感じ、
さらにそれが移動していくという不思議な感覚を味わい、
確かに気功のパワーはあると実感した。

しかし、あれから20年ぶりの気功である。
中国人のセンセイは物静かな青年で、私は椅子に座った状態で、
ほとんど体に触れられることはなかったが、
今はあまりにも濃すぎるセンセイのキャラ、私は布団で寝ている、
指はちょいちょい体につく、という状況のため、私は少々落ち着かない。
できるだけ無の境地になって、気功のパワーをピュアに受け止めようとするのだが、
どういうわけか、私の頭の中には「卑劣なマッサージ師」という
アダルトビデオ的妄想が浮かんでしまうのである。
そのうち、私が何もしゃべっていないのに、
「私はそんな者ではありませんよ」と見透かされて言われたらどうしようかと
ハラハラし、ますます落ち着かないのである。

「引っ越しを手伝うようなことをしていませんかね?」とセンセイ。
よかった、妄想はバレていない。
しかし、的中もしていない。
9月の上旬にデザイナーと打ち合わせする際に、
資料の本をたくさん入れた、ものすごい重いバッグを持ってしまい、
それ以来、調子が悪くなった気がする、でもそれは右肩にかけていたので
なぜこんなに左側が痛いのかはわからないと私は答えた。

1時間のうち、最初の30〜40分くらいが気功で、
残りの20分くらいは軽めの整体を施された。
「確かに首の具合もよくないけれど、腕の痛みと首とはまた別問題ですよ、
っていう話をしたいんですよ
「腕のつけ根のあたりに、コリコリした塊があるでしょう、
ここが腫れて血管を圧迫しているせいで腕が痛いんですよ、って言いたかったんです
センセイは語尾が独特の言い回しをする。
今、話しているのになぜ「したいんですよ」とか「言いたかった」と言うのだろうか。

気功を受けたその日と、次の日くらいまではなかなか調子がよかったが、
3日目の朝、起きるとまたしても痛みが始まってしまった。
その次の日も、またその次の日も、ちっともよくならない。
シェフは「1回あるいは重症の場合は2回で」と言っていたので、
私はもう1回、気功師に電話を入れた。
今度は2時間やらせてくださいという。


引っ越しと言われてから一つ思い出したことがあった。
7月、私は室内の模様替えをし、本棚と机の位置を入れ替えた。
あれから2カ月以上経っていたので、因果関係があるとは思い浮かばなかったのだが、
その旨を気功師に伝えると、やはりね、とばかりに彼はうなずいた。
「右のほうが筋肉があるんですよ、だから力のない左には負担が大きすぎたんです、
 ってことを言いたかったんです。本を全部出すだけでもかなり重いのにね、
 日を分けてやらず全部いっぺんに最後までやっちゃったもんだから・・・」
驚きだ。私はそこまで細かく話してはいないのに。やはり彼には何かが見えているのか?

ふと夜中に模様替えを思い立ち、すべて一人でやった。
本を床に積み上げるだけでも一苦労だったが、
やり始めると止まらなくなっていた。
家具の足の下にかませることでスルーッと動かせるコースター状の滑車を使ったのだが、
滑車を入れるその瞬間だけは、家具を片手で持ち上げて支える必要がある。
何とかやり遂げ、アタシってばスゴイ!と自分を褒めたたえたのだが、
私はやっぱり大川栄策ではなかったのだ(←わかる人にはわかる説明)。

それだけの時間の経過を前回は考慮できていなくてごめんね、とセンセイは言った。
2カ月前からの損傷だと何か気功の仕方が違うんだろうか?
今回は最初の1時間が気功で、残り1時間が整体だった。


今後はここまで悪くなる前に定期的にメンテナスとして通ったほうがいいのか、
あるいは駆け込み寺的に来るのでよいのかを聞くと、後者でいいと彼は言った。
「大丈夫、あたなの場合は、目が知らせてくれます」
「え?」
「目が黒くなりますから」
私の目の黒いうちは・・・と、むしろ生きてしっかりしている意味としては使われるが、
具合が悪くなると目が黒くなるとはこれいかに。
「目の周りが黒ずんできたら具合悪い、ということなんです」
ああ、そういう意味か。

センセイの独特な語尾は、ひょっとして、
私の体の声をメッセンジャーとして伝えているんですよ、
という意味だったのかもしれない。

「あなたは早く寝ないとダメです。睡眠時間もそうだけれど、
 寝入る時間が重要で、1時過ぎとかに寝ていてはダメ。
  遅くに寝ると、次の日、仕事するのが嫌になるタイプですってことなんです」
仕事するのが嫌になるタイプってどんなタイプや?
私の体がそう伝えているのか?
いつも1時過ぎに寝ることが多いのだが、ということは・・・


2回目の気功に行ったのが一昨日。
昨日そして今日と、まだ腕の痛みは続いている。
私の目は黒くなっているだろうか。
ああ、もう12時過ぎてしまった。
早く寝なければ、明日仕事するのが嫌になってしまう。

ところで、スゴ技でたちまち治すという話はどうなっているんですか、って
言いたいんですよ、私は。